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横田英史の読書コーナー

曖昧な弱者の時代

伊藤昌亮 、岩波新書

2026.8.21  10:33 am

 日本IBMやソフトバンクでの勤務経験をもつ社会学者が、石丸伸二現象や参政党躍進といった事象を取り上げ、日本の社会や政治で進む分断を分析した書。貧困層や社会的マイノリティといった「明白な弱者」に対する、経済的中間層や社会的マジョリティでありながら何となく弱っている「曖昧な弱者」の怒りが根底にあると結論を下す。正鵠を射た指摘が多く説得力に富む。本書を読むと、現在の日本が、トランプ大統領を生み出した米国と相似形になりつつあることがよく分かる。お薦めの良書である。
      
 貧困層やマイノリティといった「明白な弱者」は、生活保護や給付金、あるいは多様性の推進といった施策を通じて政治的・社会的なケアの対象となってきた。とりわけリベラル政党や大手メディア(いわゆるオールドメディア)は、彼らを擁護・支援するスタンスを取りがちである。一方で「曖昧な弱者」は、重い税負担を強いられながらや十分な恩恵を受けられず、「なぜ俺たち、私たちが無視され、冷遇されるのか」「真面目に生きているのに、この社会で損している」と不安と不満を募らせる。その結果、自らを「真の弱者」、支援を受ける側を「偽の弱者」ととらえ、「生活保護バッシング」や「非課税世帯バッシング」、女性や外国人への配慮への強い反発へと向かう。
      
 こうした日本の社会状況が、従来の弱者救済よりも、中間層やマジョリティの救済を掲げる政治家・政治勢力の台頭に繋がっていく。筆者は高市早苗首相もその一人として言及する。ちょうど米国のラストベルトに暮らす白人労働者がトランプの支持基盤となったのと同様の構造が、日本社会にも生まれているというのが筆者の見立てである。

書籍情報

曖昧な弱者の時代

伊藤昌亮 、岩波新書、p.224、¥1012

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。