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横田英史の読書コーナー

懐疑論〜古代ギリシアからデカルト、陰謀論まで〜

古田徹也、中公新書

2026.8.13  10:32 am

 明白な虚偽に基づく主張を臆面もなく繰り返すトランプのような政治家が跋扈し、SNSを中心に陰謀論が渦巻く現代社会で、私たちは真実(トゥルース)とどのように付き合い、どう向き合うべきかを哲学的に考察した書。筆者は、何が正しいかを指し示してくれるはずの伝統的な権威や宗教が影響力を失ったいま、古代ギリシア以来、思想家たちが探究してきた「懐疑論=判断保留の哲学」がヒントになると説く。物事の正しさや真実に疑いの目を向け、性急な結論から距離を置き、あえて判断を保留する姿勢が肝要だと強調する。
     
 現代社会が抱える問題に向き合う上で、筆者が重要視するのは「ネガティブ・ケイパビリティ」と呼ぶ資質である。事実や理由を性急に追い求めることなく、不確実さや不可解さ、懐疑の中に留まり続けることができる能力のことである。無理に白黒つけようとするから腹が立つし、頭も混乱する。あえて結論づけず、割り切れないモヤモヤを抱えている方が、ずっと精神的に健康というわけだ。
     
 本書には、ノウハウ本のような明快な結論がある訳ではない。だが、不可解な現状を読み解くための思考実験を紹介した書としてはとても面白い。ただし内容はいささか難解で、字面だけをなぞるような読み方だと、議論の展開から置いてけぼりを食らうので注意が必要だ。ちなみに同類似のテーマを扱った書としては、『エビデンスを嫌う人たち〜科学否定論者は何を考え、どう説得できるのか?〜』(国書刊行会)があるが、入門としてはこちらの方が取っつきやすいかもしれない。

書籍情報

懐疑論〜古代ギリシアからデカルト、陰謀論まで〜

古田徹也、中公新書、p.256、¥1078

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。