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横田英史の読書コーナー

ヒトとAI

岡野原大輔、岩波新書

2026.7.31  10:29 am

 AIを人間社会に組み込む際に、ヒトはどのように自己を再定義し、社会の制度や規範を再設計すべきかを論じた書。社会だけではなく、産業や経済、ビジネス、教育における「AI前提の世界」の見取り図を描き出し、どこを人間が担い、どこをAIに委ねるかを明らかにする。哲学的で抽象的な話が少なくないが、議論は構造化されており読みやすく、頭の整理に役立つ。ちなみに筆者はPreferred Networks(プリファードネットワークス)の共同創業者で、AI研究・開発とビジネスの最前線に立つ人物だ。新書版によく収めたと感心するほどの濃い内容で、強くお薦めできる1冊である。
      
 筆者はこう問いかける。「AI前提の社会が到来するときに、誰が判断をし、誰が責任を負い、誰が行為の主体となるのか、制度・規範・アーキテクチャをどのように再設計すべきなのか」と。本書では、それぞれの問いに一つひとつ丁寧に考察を加えていく。そして人間の中心的な役割は、「AIに対して目的と制約を設定し、AIの出す結果の不確実性を見極め、最終的な判断を自らの選択として引き受けること」にあると結論づける。AIの倫理的問題を取り上げる場合、えてして議論が極端な方向に振り切れることが少なくないが、本書は落ち着いた筆致で議論を展開しており好感がもてる。
     
 本書は3部構成をとり、AIを理解するとともに、AIと共に生きる社会を設計するための指針を示す。第Ⅰ部では、「ヒト以外の知能」としてのAIについて論じる。AIとは何か、学習とは何か、AIは理解しているかなど、議論の前提となるAIの特質について解説する。第2部は「ヒトの知能」について、AIと対比しながらその特徴を明らかにしていく。個別性と多様性、個人を超えて学ぶ仕組みとしての文化、死と有限性、自由と責任、ヒトの能力の構造、などの切り口で議論を深める。第3部では、ポストAIの社会を制度・経済・責任の面から描く。責任は誰のものか、仕事の再設計、数十億のAIエージェントが経済活動を担うとき、AIを社会に組み込むための設計原理など、魅力的で刺激的なテーマが並ぶ。

書籍情報

ヒトとAI

岡野原大輔、岩波新書、p.224、¥1034

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。