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横田英史の読書コーナー

「アメリカの戦争」と世界危機〜イラン侵攻は何をもたらすのか〜

三牧聖子ほか、岩波新書

2026.7.7  5:23 pm

 米国とイスラエルによるイラン攻撃が日本と世界に与えた政治的・経済的・社会的な影響を、12人の専門家がオムニバス形式で論じた書。アメリカの覇権は終焉し、米国に比べれば“まとも”に見える中国の地位が高まり、世界は加速度的に多極化すると主張する。実際、米ピュー・リサーチ・センターが最近発表した「米国・中国への評価に関する世界36か国調査」はこれを裏付ける。多くの国が米国より中国に好意を持ち、その行動を信頼し、肯定的にとらえているという。
       
 本書のカバー範囲は広い。「イランの脅威」に取り憑かれた国家・イスラエル、中東におけるイランの立ち位置、イランの宗教体制、トランプの論理、覇権国不在の世界経済のゆくえ、中国の原則と行動、ホルムズ海峡危機と日本、高市政権の外交と日本の選択、軍拡とAIなど、興味深いテーマが並ぶ。それぞれの議論に幅と奥行きがあるので、テレビや雑誌の情報だけでは飽き足らない方にお薦めの1冊である。
       
 本書の主張は、今年1月のダボス会議におけるカナダのマーク・カーニー首相の発言と軌を一にする。カーニー首相は、「『ルールに基づく国際秩序』も、その擁護者としての米国も存在しない。存在しない古い秩序へのノスタルジーに浸り、それを行動を変えない理由にしてはならない」と訴えた。米国はいまや、経済的にも外交的にも巨大な不安定要素に成り下がっている。本書は、この現実から目を背けてノスタルジーに浸り、米国に依存して投資を続ける日本の政官民の惰性に警鐘を鳴らす。
     
 最終章の「大軍拡はAIからはじまる」も興味深い。筆者は対イラン攻撃で使われたAIシステムを紹介するとともに、戦争の非人格化、ゲーム化される戦争、誰がAI兵器に歯止めをかけるのかなどと議論を展開し。最後に「『誰が生き、誰が死ぬか』をAIが決める時代が、私たちの目の前にある」と締めくくる。

書籍情報

「アメリカの戦争」と世界危機〜イラン侵攻は何をもたらすのか〜

三牧聖子ほか、岩波新書、p.256、¥1056

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。