横田英史の読書コーナー
地経学とは何か〜経済が武器化する時代の戦略思考〜
鈴木一人、新潮選書
2026.6.30 5:20 pm
トランプによる関税政策や習近平によるレアアース規制など、経済を武器化して他国への圧力を強める世界情勢を地経学(Geoeconomics)の視点で分析した1冊。東大教授で地経学研究所長を務める筆者が、経団連で行ったウェビナーの内容をまとめた。地経学とは、地政学(Geopolitics)と経済学(Economics)を組み合わせた造語である。経済安全保障や外交・政治的目標の達成に経済的手段を用いる「エコノミック・ステイトクラフト(Economic Statecraft)」の考え方を、地政学と組み合わせた学問を指す。本書は、米国によるイラン攻撃による石油危機や台湾有事への懸念など、憂慮すべき現状を整理するうえで役立つ。時宜を得たお薦めの書である。
本書のカバー範囲は広い。半導体をめぐる地経学、地経学からみたITとAI、地経学で考える宇宙の秩序、資源と地経学的パワー、経済制裁と地経学、トランプ時代の地経学と、興味深いテーマが並ぶ。全体として専門的な深みにはやや乏しいものの(半導体のセクションには誤りがあったりする)、各論点が手際よくまとめられており読みやすい。
筆者はサプライチェーンにおける「相互依存の罠」を指摘する。例えばアアースのように特定の国・地域への経済的依存が強まるほど自国の脆弱性は増し、安全保障上の脅威になりうる。ホルムズ海峡の封鎖を武器にするイランの動向も同じ文脈である。個人的には、資産凍結や金融制裁、渡航禁止、貿易停止といった手段を講じる「経済制裁の仕組み」についての解説が有益だった。経済制裁が効果を発揮しにくいケースの分析、経済制裁における基軸通貨ドルの重み、SWIFT(国際銀行間通信協会)排除や保険適用制限による制裁の効力と限界など、不案内な分野ゆえに興味深く読み進めることができた。
最後に筆者は、日本が地経学的に激動を生き抜く道を提示する。そのモデルとして挙げるのが、米国が離脱した後に日本がリーダーシップを発揮してまとめたCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)だ。日本は米国との相互リスペクト関係を維持しつつ、独自のイニシアティブを発揮して他の地域との関係を築くべきだと訴える。ルールに基づく国際秩序を守りつつ、米国だけに依存しない市場を開拓する。これこそが、これからの日本が取るべき道であるという。
書籍情報
地経学とは何か〜経済が武器化する時代の戦略思考〜
鈴木一人、新潮選書、p.288、¥1925

















