横田英史の読書コーナー
天皇への敗北:シリーズ哲学講話
國分功一郎、新潮新書
2026.7.3 5:21 pm
日本国憲法と関連付けながら、日本政治や日本国民、日本社会における立憲主義と民主主義の成熟について論じた書。憲法学者や文学者、哲学者が戦後展開してきた「天皇・憲法・戦後」をめぐる議論を踏まえながら議論を展開する。例えば文学者としては中野重治や大西巨人、文芸評論家としては江藤淳などの著作を取り上げる。東大教授(哲学専攻)である筆者が、学期を終えた後に関心のあるテーマを自由に語る「講話」を新書化したこともあり、語り口が平易で分かりやすい。
日本国憲法によって日本国民にもたらされた立憲主義と民主主義は、憲法改正を掲げる第2次安倍政権によって危機に瀕することになる。日本国民に立憲主義と民主主義が深く根付いていたら、政権の動きを跳ね返すこともできたが、戦後70年経ってもなお成熟度が足りていなかった。その結果、憲法改正を食い止めるために国民が頼ったのが、天皇の「護憲的」な発言や態度だった。これが著者の見立てで、タイトルの「天皇への敗北」につながる。
当然だが、安倍に対する筆者の評価は「成熟とは正反対の幼稚な態度を取り続けた」と辛辣である。反対する勢力に対しては「選挙で選ばれた自分たちが物事を決めて何が悪い」と居直った。権力は常に制限されなければならないという立憲主義の原則が理解できない。自分に都合の悪いものを取り除こうという衝動だけで動く「反知性主義」だと断じる。安倍と同じ路線をひた走る高市が憲法改正に動くなか、今まさに読むべき1冊だろう。
書籍情報
天皇への敗北:シリーズ哲学講話
國分功一郎、新潮新書、p.224、¥990

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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