Electronics Information Service

組込みシステム技術者向け
オンライン・マガジン

MENU

横田英史の読書コーナー

あなたの顔はわたしたちのもの〜顔認証AIの誕生と、プライバシーの終わりの物語〜

カシミール・ヒル、高橋則明・訳、実務教育出版

2026.4.30  5:05 pm

 FacebookやLinkedInといったSNSにアップされた顔写真(600億枚以上)のデータを無断でスクレイピングし、その顔と関連付けて個人情報を提供するサービスを開発したスタートアップ米Clearviewと開発者のHoan Tan-Thatを追ったノンフィクション。米Clearviewには影の大統領とも呼ばれるピーター・ティールも出資する。同社が開発したアプリは、1枚の顔写真から、名前やSNSアカウント、家族、住所、さらに本人も知らない過去の写真までを、99%の精度で特定できるという。すでに米国の地方警察やFBI、複数の権威主義国家(カタール、コロンビア、アラブ首長国連邦)などを顧客に抱える。悪名高いICE(アメリカ合衆国移民・関税執行局)もその一つだ。ニューヨーク・タイムズの記者である筆者は、ディストピア化が進む現代社会の実情を丹念な取材で明らかにする。
      
 本書のキーワードの一つが「技術的甘美」である。技術の進歩によって得られる“右肩上がり”喜びが、本来なら感じるべき懸念を圧倒してしまう心理的な状況を指す。エンジニアや研究者が陥りやすい心理状態と得るだろう。この技術的甘美が顔認識技術でも生じ、本当なら考慮すべきプライバシー侵害への懸念が消し飛んでしまう。そもそもClearviewのアプリが普及するキッカケを作ったのが、アメリカ同時多発テロ事件9.11である。監視カメラの重要性がクローズアップされ、プライバシーは二の次になってしまった。
      
 著者は顔認識についてアリストテレスの人相学に遡って話を進める。自動化された初めての顔認識システムは、大阪万博にNECが出展した「コンピュータの天眼鏡」だという。自分の見た目に基づいて、どの有名人の性格に似ているかをコンピュータが判定するシステムだった。ちなみに開発したのは当時京都大学に在籍していた金出武雄(現在は米カーネギーメロン大学教授)。ロボットや自動運転でも有名な人物である。

書籍情報

あなたの顔はわたしたちのもの〜顔認証AIの誕生と、プライバシーの終わりの物語〜

カシミール・ヒル、高橋則明・訳、実務教育出版、p.448、¥2750

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。