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横田英史の読書コーナー

知性の未来:脳はいかに進化し、AIは何を変えるのか

マックス・ベネット、恩蔵絢子・訳、新潮社

2026.4.16  5:00 pm

 脳に関する書籍の著者といえば脳科学者や神経科学者を思い浮かべるが、本書はAIスタートアップの共同創業者が脳の進化を論じた書である。AIの進化と対比しながら脳の進化の過程を検証する。少し変わった趣向で楽しく読み進めることができる。著者は、「脳はAIをどのように構築すべきかについてのインスピレーションになり、AIは我々が脳を理解しているかどうかのリトマス紙になる」と語る。機械学習や強化学習、大規模言語モデル(LLM)などを、脳の進化や心の問題と関連付けながら解説する。大規模言語モデル(LLM)からは、人間のような人工知能(人工超知能)は生まれないと断じる。
      
 筆者は5つのブレークスルーが知性を発展させたと語る。すなわち操縦、強化、シミュテーション、メンタライジング、発話である。それぞれ左右相称動物、脊椎動物、哺乳類、霊長類、人間と対応付けながら説明を加える。左右相称動物は掃除ロボット「ルンバ」と同様に連合学習によって動き回る。脊椎動物は試行錯誤学習によって動くが、これは畳み込みニューラルネット(CNN)の仕組みと類似するという。
        
 哺乳類の知性はシミュレーション能力によって発展したという見方は面白い。周囲の環境をシミュレーションすることで、哺乳類は実際に物事が起こる前に予測する能力を備えるようになった。霊長類は、他者(相手)の意図や知識を推測する「心の理論」によって特徴づけられるという。これが他者の心を理解して伝える「人に教える能力」につながる。人間は発話(物事に対するラベル付けや文法)によって、知識の爆発的な普及を可能にした。そして世代を超えた知識の共有によって、文明を生み出したというのが著者の見立てである。
      
 では6番目のブレークスルーは何なのか。筆者は、人工超知能の創造である可能性が高いと語る。半導体チップのなかに我々の子孫が出現すること、知性を生物学的媒体からデジタル媒体に移すことだとする。この書評で以前紹介した「意識の脳科学〜「デジタル不老不死」の扉を開く〜」に通じるところがある、

書籍情報

知性の未来:脳はいかに進化し、AIは何を変えるのか

マックス・ベネット、恩蔵絢子・訳、新潮社、p.544、¥3960

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。