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横田英史の読書コーナー

イラン現代史〜イスラーム革命から核問題、対イスラエル戦争まで〜

黒田 賢治、 中公新書

2026.4.7  4:58 pm

 ホメイニー師を中心とした体制転換で1979年に生まれたイラン・イスラーム共和国の政治動向を軸に、イランに関する経済・社会・国際関係を概観した書。カバーするのは2025年7月までだが、2026年に始まった米国・イスラエルとの戦争に至る背景を理解するのに役立つ。ホメイニー師によるイスラム革命や米国大使館人質事件など、イランに関する知識は断片的になりがちだが、全体像を概観できる。点として散らばっていた情報が、線とは言わないが破線程度になって繋がる。日米のメディアの報道を正しく理解するうえで、お薦めの1冊である。
     
 出色なのはイスラーム共和国体制の仕組みと革命防衛隊の組織についての解説である。例えばイランの政治機構は、最高指導者が軍(革命防衛隊)と最高司法評議会、大統領、国民議会の任命権を握る構成をとる。最高指導者(法学者)が三権を直接統治する形態だ。大統領候補の選抜方法も、最高指導者が任命権をもつ「護憲評議会(監督評議会)」による事前の資格審査が存在しユニークである。筆者は、複雑で込み入ったイランの政治体制について、図を効果的に使って解説しており理解しやすい。
     
 今回の米国・イスラエルとの戦争で驚くのは、イランの体制が強固なところだろう。奇襲攻撃で指導者幹部が殺害されても、報復措置が可能な程度の指揮系統が維持されている。発信するメッセージも常軌を逸し支離滅裂な米国に比べて遥かにまともである。
     
 筆者が「ポストイスラーム主義」と呼ぶ、最近のイラン社会状況は興味深い。宗教を絶対視するのではなく、社会的な必要性を認め、聖なるものが俗なるものに道を譲ることも容認するようになった。信仰としてのイスラームと、社会や個人の選択の自由が融合したのが現在のイラン社会という。全体に満足感のある書だが、難を言えばホメイニ―やハメネイ―、パフラヴィーなど、人名表記が日本の新聞と異なり少し戸惑うところ。日本との関係については囲み記事で触れる程度で、IJPC(イラン・ジャパン石油化学)への言及がないのも物足りない。

書籍情報

イラン現代史〜イスラーム革命から核問題、対イスラエル戦争まで〜

黒田 賢治、 中公新書、p.288、¥1155

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。