Electronics Information Service

組込みシステム技術者向け
オンライン・マガジン

MENU

横田英史の読書コーナー

音でデザインする〜「緊急地震速報音」は、なぜ緊張するのか?〜

小久保 隆、 講談社選書

2026.4.2  4:57 pm

 緊急地震速報や電子マネー「iD」の決済音、横浜市のサウンドロゴ、六本木ヒルズや横浜クイーンズスクエアなどの商業施設に流れる環境音などの音をデザインした環境音楽家が、制作意図や効果を高める仕掛けを語った書。人が何気なく聞く短い環境音に込められた思いと設計法はとても興味深い。スマホでQRコードを読むと実際の音を体感できる。ジャマイカやフランスの潮騒の音、ニュージーランドの小川のせせらぎの音など、筆者が各地で集めた自然音を聴くことができる。これがなかなか良い。
     
 冒頭で取り上げる緊急地震速報の話は特に面白い。発注者が求めたのは「眠っていても絶低肉づく音」。これに対して筆者は2つの方針を立てる。一つは全く新しい音で、聞いたことのない音にすること。もう一つは、脳を覚醒に導くサウンドであること。この方針を沿いながら、いくつかの工夫をこらした。まずベートーヴェンの「運命」のように音を繰り返して、強い印象を与えるようにした。さらにスマホや携帯電話などの貧弱な音響システムでも、人間に認識しやすい大音響であること。音を吸収しやすい布などに包まれていることを仮定し、3kHzの周辺に音を集中させる。
     
 このほか筆者は、駅の列車発車チャイム、電気自動車やハイブリッド車などの静粛性に対応した「車両接近通報装置」などの事例も取り上げる。駅のように公共の場で流れる音は、「音」「環境」「人」の関係性をしっかり考える必要性を説く。筆者は、鳥たちに迷惑をかけるという理由で、屋外でリアルな鳥の声を流さないという。音だけではなくメディアに関心のある方にお薦めの1冊である。

書籍情報

音でデザインする〜「緊急地震速報音」は、なぜ緊張するのか?〜

小久保 隆、 講談社選書、p.208、¥1980

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。