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横田英史の読書コーナー

サイロ・エフェクト~高度専門化社会の罠~

ジリアン・テット、土方奈美・訳、文藝春秋

2016.3.28  12:50 pm

 文化人類学者の経歴を持つ英フィナンシャル・タイムス米国版編集長が組織の「縦割り(サイロ、タコツボ)」問題を論じた書。所どころに文化人類学者の知見が顔を出すユニークなビジネス書に仕上がっている。企業や病院、学会に巣食っているサイロ問題を克服するには、「インサイダー兼アウトサイダー」の視点で組織を見ることが肝要だと指摘する。筆者はサイロ・シンドロームによって会社を危うくした事例としてソニーを挙げ、サイロを崩そうと孤軍奮闘したストリンガーを高く評価する。日本における評価との違いが実に興味深い。企業が陥りやすい悪弊にどのように対処すべきかを事例に基づいて説いたビジネス書であり、多くの方にお薦めできる。

 冒頭は、1999年のコムデックスにおける出井伸之ソニー CEO のプレゼンテーションで始まる。大勢の聴衆を前に、出井氏が披露したのは2つの部門が開発した3機種の新型ウォークマン。筆者はサイロ・シンドロームの顕著な例としてソニーを取り上げる。例えばサイロを崩すために本社に呼び寄せたプレイステーション部門が、拠点を移したもののガラスの壁で部署を囲ってしまったエピソードなど読ませる内容となっている。このほか、保守的と考えられていたスイスUBS 銀行がサブプライムで経営破綻寸前に追い込まれた事例や経済学者が狭い専門領域に閉じこもり有効な提言ができなくなった事例を紹介する。

 後半ではサイロ・シンドロームを打破するための方策を扱っており役立ち感がある。警察が集めていたデータを組織の枠を超えて活用して殺人予報地図を作り犯罪予防に役立てたシカゴ警察、米 Microsoft の二の舞いを避けるために米 Facebook が採った方策、外科、内科、心臓外科、精神科などの枠を取り払いガンなどの疾患や脳などの身体の部位で組織を分けたクリーブランド病院の話など興味深い事例が並ぶ。ちなみにシカゴの人口は、ニューヨークの人口の3分の1にもかかわらず、殺人事件の件数はシカゴの方が多かったという。IT ベンチャーをおこしたデータサイエンティストを雇って、殺人予報地図を作成することで状況を一変させた。

書籍情報

サイロ・エフェクト~高度専門化社会の罠~

ジリアン・テット、土方奈美・訳、文藝春秋、p.365、¥1793

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。