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横田英史の読書コーナー

ロボットの脅威~人の仕事がなくなる日~

マーティン・フォード、松本剛史・訳、日本経済新聞出版社

2016.1.9  12:41 pm

 AIが人間の仕事や経済に与える深刻な影響を論じた書。情報技術(特にAI)の進展が人間の職の大半を奪うと主張する。類書と異なるのは、労働者やホワイトカラーに高度な教育や訓練を施しても意味がないと主張するところ。ちなみにタイトルにある“ロボット”は読者層を広げるために入れたものだろう。必ずしもロボットに焦点を当てているわけではなく、情報技術が主語なので注意が必要である。

 著者はデータを駆使して自説を補強する。例えば米国の職業の50%近くは、機械による完全自動化に移行するというデータを提示する。その結果として生まれる長期にわたる失業や不完全雇用は、生産性や賃金の上昇、個人消費の増加のあいだに成り立っていたフィードバックループが崩れることを意味し、健全な消費者の数が足りなくなる状況を生み出す。根本的な再構成を行わなければ繁栄を続けられないと、著者は断じる。

 生産性の伸びは労働者の昇給分をはるかに引き離し、労働分配率は21世紀に入った直後から急落したという。問題は不況期に失われる雇用が増えることではなく、回復期に創出される雇用が少ないことだと語る。しかも回復期に生み出される職が、消えた職よりも総じて条件が悪い。議論の進め方には説得力がある。

 ちなみにテクノロジーとうまく折り合いがつけられるのは、現在でも失業と無縁の人たち。経済が作り出す製品やサービスを存分に享受できるだけの可処分所得を得られない人口がどんどん増えていく。著者が予測するのは何とも暗い未来である。

書籍情報

ロボットの脅威~人の仕事がなくなる日~

マーティン・フォード、松本剛史・訳、日本経済新聞出版社、p.412、¥2592

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。