Electronics Information Service

組込みシステム技術者向け
オンライン・マガジン

MENU

横田英史の読書コーナー

なぜ技術で勝ってビジネスで負けるのか

山下勝己、仲森智博、日経BP社

2016.1.7  12:39 pm

 ハードディスク装置(HDD)に焦点を絞って、「技術で勝ってビジネスで負ける」国内電機メーカーの問題点をえぐりだした書。HDD技術の変遷とメーカーの盛衰を丹念にたどっている。日経エレクトロニクスでHDD担当をしていた評者には、懐かしい話の連続である。ただし技術的な記述が少なくないので、それなりの知識がないと読みこなすのは難しいかもしれない。ちなみに筆者は日経エレ時代の同僚なので、この書評には若干のバイアスがかかっているかもしれない。

 著者は、HDDには「勝利の方程式」が通用しなかったと語る。ここでいう勝利の方程式とは、海外で生まれた新技術をいち早く導入し、技術を磨いて性能と品質、コストで海外メーカーを圧倒して市場を専有するというパターンである。HDDは、磁気記憶をベースに精密機械技術や材料技術、電子技術という日本の得意技を駆使した装置である。技術的にも産業構造的にも、テープレコーダーやVTR、携帯型ビデオカメラ、フロッピーディスク、半導体メモリ(DRAM)、液晶パネルと似た構造を持つ。

 実際、NECや日立製作所、富士通、東芝、ソニー、三菱電機、日本ビクター、パナソニックといった名だたる企業が、HDD生みの親である米IBMの打倒に乗り出した。しかし、結果として東芝以外は敗れ去った。最後にはIBMも市場から離脱し、米シーゲートと米ウェスタン・デジタルという水平分業メーカーが大きなシェアを占めるようになった。こうした状況に陥ったのは、パソコンという新しい市場に適用できなかったことが背景にあるというのが著者の見立てである。

 パソコン市場の爆発的な拡大で、垂直統合よりも水平分業が有利になったからだ。高品質で低コストの部品を素早く選んで使うことで競争優位に立てる状況が生まれた。意思決定の遅さ、部品内製部門など社内関連部署への遠慮などが、垂直統合型の日本企業の足かせとなった。

書籍情報

なぜ技術で勝ってビジネスで負けるのか

山下勝己、仲森智博、日経BP社、p.192、¥1944

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。