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横田英史の読書コーナー

貿易自由化の理念と現実(世界のなかの日本経済:不確実性を超えて)

阿部顕三、NTT出版

2016.1.6  12:38 pm

 「TPP(環太平洋経済連携協定)の大筋合意」というタイミングに合わせた書。貿易自由化の理念や意義、限界などについて、経済学者らしく理想論を展開している。政治との兼ね合いを考えると実効性に疑問を感じるものの、押さえておくべき論点を手際よく整理している。貿易自由化についての頭の整理に役立つ。もっとも残念なところもある。「世界のなかの日本経済:不確実性を超えて」はできの良いシリーズ企画だが、最後に上梓された本書はインパクト(驚き)の面と校正面で見劣りがする。特に校閲の精度が低いのが気になる。編集者の責任だろう。

 本書の扱う範囲は広い。多角的貿易交渉(GATT/WTO体制)、自由貿易協定(FTA)やTPPといった地域貿易協定による自由化の内容と限界、農業保護の実際、輸入産業の一時的な救済措置(セーフガードとアンチダンピング)の実効性、貿易自由化は環境や安全を脅かすのか、といった問題を手際よく整理する。

書籍情報

貿易自由化の理念と現実(世界のなかの日本経済:不確実性を超えて)

阿部顕三、NTT出版、p.212、¥2484

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。