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横田英史の読書コーナー

大村智~2億人を病魔から守った化学者~

馬場錬成、中央公論新社

2015.10.23  3:58 pm

 ノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智 北里大学特別栄誉教授の評伝。2012年2月初版の書で、ノーベル賞発表時は売り切れ状態だった。増刷がかかりようやく入手できた。大村特別栄誉教授のユニークさをあますところなく伝えた良書である。科学者としての凄さはもちろんだが、人生の豊かさには舌を巻く。評者はどちらかというと後者に惹かれる。絵画の収集、女子美術大学名誉理事長、韮崎大村美術館の創設、多くの芸術家との交流など、人生を楽しんでいるさまは実に見事である。ところどころ登場する奥さんもいい。出張などでちょっと時間ができたときに読むのに向く、肩の凝らないノンフィクションである。
 大村氏は、山梨県の農家に生まれ、山梨大学を卒業後にいったんは定時制高校に奉職するものの、学生たちに刺激を受け研究者に転じる。旧帝大卒でないのも味わい深い。研究者人生も山あり谷ありだったが、米国留学をキッカケに大きく展望が開ける。研究一辺倒の人生でないのが大村氏の真骨頂であり、本書の読みどころである。経営者としての勘やセンス、度胸に優れ、企業からの研究費で研究室を運営する仕組みを構築したり、北里研究所と北里大学を立て直したり、埼玉の北里大学メディカルセンター設立に際して反対する地元医師会を説き伏せたりと、とにかくただ者ではない。

書籍情報

大村智~2億人を病魔から守った化学者~

馬場錬成、中央公論新社、p.293、¥2268

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。