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横田英史の読書コーナー

ブランド論~無形の差別化を作る20の基本原則~

デービッド・アーカー著、阿久津聡・訳、ダイヤモンド社

2015.4.10  1:11 pm

 ブランド論確立の立役者と言われるデービッド・アーカーの20年にわたる研究成果をまとめた書。ブランドにかかわる話題を過不足なく網羅的に扱っており役立ち感がある。日経BPコンサルティングが行っている「ブランド・ジャパン」の特別顧問を務めていることもあって、日本のブランドへの言及が多く親しみが持てる。各章の最後にサマリーがあり、評者のような初学者には役に立つ。翻訳も悪くないので、ブランド・マーケティングを学びたい方や知識を整理したい方に向く書である。
 本書はブランディングの考え方と実践方法を20の基本原則にまとめて解説し、強いブランドを生み出し、強化し、利用する工程表を示している。例えば戦略的にブランド・マネジメントを行うには、複数のブランドをファミリーとして扱い、それを一つのポートフォリオとして管理・運営することがポイントだと語る。人々の心をつかむのは機能的な便益ではなく、情緒的便益、自己表現便益、社会的便益であるといったコメントも心に残る。
 企業が陥りやすい罠についての指摘は適切で、いちいちもっともである。例えば組織がサイロ化すると、複数のブランドがバラバラに管理される状態に陥る。孤立と競争を対話と協力に置き換え、分かりやすさとシナジー効果を生み出す体制を構築するべきだと繰り返し述べる。このほかブランドの衰弱に関する論考には、いろいろと考えさせられる。著者はブランド衰弱の原因を4つ挙げる。第1はブランドが所属するカテゴリーが縮小、または変化していること。第2は、何らかの買わない理由が急速に広がったこと。第3はブランドの活気と存在感が失われつつあること。第4に本来なら戦略的に扱うべきブランドが、現在主流のブランドを重視するあまりリソースが割り当てられなかったこと。どこかで体験したり聞いた話で、耳が痛い。

書籍情報

ブランド論~無形の差別化を作る20の基本原則~

デービッド・アーカー著、阿久津聡・訳、ダイヤモンド社、p.352、¥2592

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。