Electronics Information Service

組込みシステム技術者向け
オンライン・マガジン

MENU

横田英史の読書コーナー

スポーツ遺伝子は勝者を決めるか ? ~アスリートの科学~

デイヴィッド・エプスタイン、福典之・監修、川又政治・訳、早川書房

2015.2.3  10:26 am

 スポーツで勝敗を左右するのは遺伝なのか訓練なのか、それとも環境なのか。「1万時間の法則」を実践すれば誰でも一流になれるのか。こうした疑問に対し、スポーツ・ジャーナリストの筆者が数々の研究成果をあさり、世界各国を調査してまとめたノンフィクションである。陸上競技(短距離、長距離)、野球、サッカー、バスケット、テニスなど、対象として取り上げるスポーツの幅は広い。国家によるアスリート育成プログラム、ドーピング問題といった興味深いテーマも取り上げる。スポーツ好きにはたまらない話がてんこ盛りで、読み応えがある。知的好奇心を満足させられる肩のこらない読み物なので多くの方にお薦めだ。
 まず出てくるのが「1万時間の法則」。フロリダ州立大学の心理学者エリクソンが提示したと言われる法則で、ある分野でエキスパートになるには1万時間の練習が必要かつ十分というもの。1万時間に足りなければ誰もエキスパートになれないが、1万時間に達すれば誰もがエキスパートになれるというもの。こんな法則が存在するとは寡聞して知らなかったが、筆者は具体的な反証を挙げながら反論を試みる。
 このほか短距離でジャマイカ、中長距離でケニアのアスリートがなぜ強いのかにも迫る。ここが本書のクライマックスである。とりわけケニアの話が圧巻だ。2013年のベルリン・マラソンでケニアの選手が1位~5位を独占。しかも全て少数民族(人口500万人)のカレンジン族出身者である。2時間10分を切った選手は、米国人が17人、英国人が14人。一方でカレンジン族出身者は72人に達する。筆者はカレンジン族の類まれな生理学的資質とトレーニング環境が相まってこの成績につながっていることを、現地取材と研究成果をもとに明らかにする。つまり優れたアスリートを生むのは、遺伝的な要素と環境的な要素の両方というのが筆者の結論である。

書籍情報

スポーツ遺伝子は勝者を決めるか ? ~アスリートの科学~

デイヴィッド・エプスタイン、福典之・監修、川又政治・訳、早川書房、p.448、¥2268

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。