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横田英史の読書コーナー

プルトニウムファイル~いま明かされる放射能人体実験の全貌~

アイリーン・ウェルサム、渡辺正・訳、翔泳社

2013.8.13  12:00 am

 凄まじい取材力に圧倒されるノンフィクションである。プルトニウムを人間に注射し、放射能の影響を調べる人体実験が国家の名のもとに米国で繰り返されていた事実を丹念な取材をもとに追っている。人体実験に関与した医者や科学者の行状を明らかにするとともに、実験の対象になった人たちの人生にも迫る。半世紀にわたって隠されていただけに、取材に困難が伴うのは想像に難くない。筆者は、ピューリツァー賞を受賞したこともある米国人ジャーナリストで、その力量をいかんなく発揮している。ちなみに本書は2000年に刊行された同名の書籍に加筆・修正を加えた新装版。原子力にまつわる歴史を知ることができる良書である。
 本書は、冷戦時代に数千回の放射能人体実験が行われ、その被験者の大半が貧者か弱者か病人だったことを明らかにする。プルトニウムを注射されたのは18人。このほか、829人の妊婦に放射性の鉄を投与したり、74人の施設の子どもへの放射性物質投与、700人以上の患者に対する全身照射、131人の囚人の睾丸への放射線照射などやりたい放題だった。米原子力委員会は、これらの事実をひた隠しに隠した。
 クリントン政権は1995年に、放射能人体実験に関する報告書を発表し謝罪した。ところが、同じ日にO.J.シンプソン裁判の無罪評決が下ったこともあり、マスコミの扱いは小さかった。恥ずかしながら評者も、この事実を本書を読むまで知らなかった。

書籍情報

プルトニウムファイル~いま明かされる放射能人体実験の全貌~
アイリーン・ウェルサム、渡辺正・訳、翔泳社、p.600、¥2,625

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。