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横田英史の読書コーナー

鼻の先から尻尾まで~神経内科医の生物学~

岩田誠、中山書店

2013.8.1  12:00 am

 神経内科医が人間の体の不思議を、鼻の先から尻尾にわたって解説した書。編集者の試みは悪くないが、一つひとつの部位の説明が短いのと、専門用語を無造作に多用している面があり、素人には読みづらい。筆者は洒脱な学者のようだが、それを活かしきれていない。全体に、少々面白みに欠けているのは残念である。
 本書は、鼻、目、脳、顎、背骨、首など全部で11の部位について、それぞれ数ページを割いて紹介する。神経内科医の診療は、鼻の先から尻尾までの領域に対し刺激を与え、その反応を観察することによって成り立っているという。筆者は本書で、人体の各部位をどのような観察をしてきたかを紹介するとともに、生物学的な進化の側面も論じている。研究者としての体験について力を注いで記述しているのも本書の特徴である。
 興味深いのは四つの部位について「神様の失敗(設計ミス)」と称しているところ。具体的には、頸椎、鼠径輪、肛門の周りの静脈叢、腰椎だ。例えば頸椎。四足で歩いているのなら問題はなかったが、二足歩行を始め、重い頭を乗せて40年以上も歩くことは神様の想定外だった。頸椎の椎間板は擦り切れ、頸部変形性脊椎症(頸椎症)を引き起こす。鼠径輪では鼠径ヘルニア、肛門の周りの静脈叢では痔核、腰椎では腰椎症が人間を悩ませる。確かに、こうした症状を訴える方は少なくない。

書籍情報

鼻の先から尻尾まで~神経内科医の生物学~
岩田誠、中山書店、p.224、¥2,940

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。