横田英史の読書コーナー
「次の一手」はどう決まるか 〜棋士の直観と脳科学〜
中谷裕教、伊藤毅志、勝又清和、川妻庸男、大熊健司、勁草書房
2018.6.22 11:02 pm
故・米長邦雄永世棋聖の肝いりで、理化学研究所と富士通、日本棋士連盟が連携して2007年4月に始まった「将棋思考プロセス研究プロジェクト」を当事者が解説した書。棋士は、脳の仕組みをどのように使って将棋を打っているのかを探求するプロジェクトである。企画は優れものでプロジェクトのメンバーも魅力的だし、本書で紹介された実験と分析の数々は実に興味深い。脳科学や認知科学、人工知能に関心のある方々に強くお薦めできる良書である。
fMRI(機能的磁気共鳴画像法)装置や視線計測装置を使った実験結果を写真やグラフ、表を効果的に用いて解説しており、読者の理解を助けてくれる。これらの仕掛けを見るだけでも楽しい。実験から分かることは棋士の直感の確かさである。瞬時に思いついた手が最善手である確率が極めて高い。棋士やアマチュアの上級者は、一瞬で先の先まで読んでいる。
コンピュータ将棋から得た知見も面白い。人間が作り上げた定跡は「判断を分かりやすくする」ことを基準にしすぎており、人間はまだ将棋の本質を理解していないのではないかという。米長永世棋聖がコンピュータに負けたときに、羽生善治は次のようにコメントした。「これからはコンピュータの計算能力から導かれる一手を、人間の知性で理解し、同じような結論を導きさせるのかを問われる気がする」と。
書籍情報
「次の一手」はどう決まるか〜棋士の直観と脳科学〜
中谷裕教、伊藤毅志、勝又清和、川妻庸男、大熊健司、勁草書房、p.183、¥2700

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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