記者会見 NO-19
完全復活を目指すスパンションが、日本の組込み市場に攻勢

社長兼CEO、ジョン・キスパート氏

NOR型FLASHメモリのトップ・サプライヤである、スパンション社は昨年、破産法第11条から脱して経営再建を果たした。このほど、同社の社長兼CEO(最高経営責任者)のジョン・キスパート氏が来日して都内で記者会見を開き、最近の業績と今後の事業・製品戦略などについて説明した。(参照:2011年8月の記者会見


業績の概況は?
昨年春に破産法11条からの脱却を果たして以来、Spansion社の業績、財務内容を順次改善さているようだ。
キスパート社長は、2011年通年の売上高が前年比微減の11億ドルであったものの、財務状態は着実に改善していることを強調した。2011年第4四半期においては、2億2千万ドルの売上高の1.5%にあたる330万ドルの営業収益を上げ、現金、預金、短期投資額の総額として2億6千3百万ドルを確保したと説明した。従業員数は2800人と、昨年夏から700人ほど削減されており、会津の前工程工場をTIに売却した後もリストラを進めているようだ。

同社の直近の製品市場別の出荷先比率は、下図のようになっている。

(Spansion社発表資料からEISが作成)


2010年の比率と比較すると、ワイヤレスの比率が下がって、自動車・産業向けが増加していることがわかる。これは、携帯電話向けが減少して自動車向けが増加していると判断しても良いだろう。同社は2011年のFLASHメモリの市場において、自動車向けで68%、ゲーム向け市場で65%、コンピュータ・通信向けで41%のシェアを握る業界のトップ・サプライヤであると説明していた。

Spansion 社、市場別出荷比率 2010年との比較

(発表資料をベースにEISが作成、2010年は通年のデータ)


自動車・産業向けの伸びは、日本市場が牽引
キスパート氏は、自動車・産業向けが伸長しているのは、特に日本の車載機器向けが好調であるからだと説明した。同社は2010年に売上の26%を日本市場で得ていたが、直近の地域別売上比率を見ると、2011年4Qで日本が全体の37%ともっとも大きな割合を占めるようになっている。多くの外国系半導体メーカーの日本市場への依存率は8-15%程度であり、主要顧客の製造拠点の海外移転が進行していることもあって、この比率はさらに低下する傾向にある。こうした中、売上の37%を日本市場から得ているというのは外国系半導体メーカーとしては異例であり、同社の日本市場での健闘は特筆される。

2011年4Qの地域別売上高比率

(発表資料をベースにEISが作成)

キスパート社長は「日本市場での売上の増加は、自動車メーカー向けの製品が貢献している」と説明した。具体的には「運転支援システム(ADAS)やメータークラスタ廻りに使用される2Gビット以下の比較的小容量のパラレル出力NOR、および高速のSPI(Serial Peripheral Interface)製品が好調で、自動車メーカーの要求する車載機器向けの広い動作温度の製品を高品質・高信頼性で供給できること、また日本の顧客からの要求や問い合わせに60名ほどいる日本のプロダクト・エンジニア達がキメ細かく、迅速に対応していることが大きな成果に繋がっている」とコメントした。

主力は今後も組込み機器用のパラレル出力NORタイプ?
同社の主力製品は65nmプロセスで製造されるパラレル出力のNORタイプで、昨年の第4四半期には日本の顧客の要求に対応した4Gビットのパラレル出力製品の出荷も開始している。また、同社は、現在45nmプロセスによる8G製品の認定作業を進めている。同社の45nmプロセスは、高価な液浸露光装置を使用せず、プロセスの最適化などによって65nmと比較した工数の増加も最小にできるため、製造コストを低く抑えることができるのが強みだという。
同社が供給している他の製品グループとしては、128M〜1Gビットの大容量SPIタイプ、4M〜64Mの低容量SPIタイプがあり、これに昨年発表した組込み機器向けの1G-8GのNANDタイプが加わる予定だ。このNAND FLASHメモリの開発は日本のエルピーダ・メモリとの提携で進めてきたものであり、この記者会見後に発表されたエルピーダ社の会社更生法申請という事実が、今後、どのような影響を及ぼすのか、非常に気がかりである。
キスパート社長は今後も新たな製品開発やプロセス開発などは、あくまでも顧客のニーズに対応して行っていく方針だと説明したが、今後の開発予定品の中にこれまでとはコンセプトが異なるPSSと呼ばれるデバイスがあることも明らかにした。同社が呼ぶPPSとは、Programmable System Solutionと呼ばれるもので、大容量のNOR FLASHメモリに小規模なロジック回路を付加してシングル・チップに集積化したデバイスだ。チップ面積全体の80%をNOR FLASHが占め、残り20%をロジック部に割り当てるという。顔を含む画像認識機能や音声の認識機能などを、マイクロプロセッサを中心に大容量のメモリやインタフェースなどを集積したSoCで実現すると、デバイス・コストの上昇に加えてソフトウェアの開発費が必要になる。PPSでは、認識対象の画像や音声のパターンをあらかじめFLASHメモリに記憶させておき、外部入力のパターンとマッチング、相関をとるというコンセプトである。プロセッサを必要としないため、ハードウェアだけでこの機能を簡単に実現しようというアイディアだ。このデバイスも日本の顧客からの要望に基づくもののようだ。同社はこの製品で2015年に20億ドル規模の売上を目指す目標を掲げていた。
キスパート社長は同社が提供する製品の領域は半導体業界全体の成長率よりもはるかに高い、年率20%で成長することが期待され、明るい見通しであると今後の業績回復に自信を示した。
同社の完全復活と業績の伸長には、日本を中心にした車載を含む組込み機器向け製品での成功が不可欠となりそうだ。

取材:EIS編集部 中村

 

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