記者会見 NO-8
海外半導体メーカー新春記者懇談会/新製品発表会

リポータ:EIS編集部 中村

2006年を迎えて、米国系主要半導体メーカーが昨年度の業績報告や本年度の方針などと併せて、新製品を発表する記者会見を相次いで開催した。以下にEIS編集部が参加できたザイリンクス、AMD、日本TI、各社の記者会見の模様をリポートする。

1月16日 ザイリンクス(株)新春記者懇談会、新製品発表会

今年、最初に参加したのはFPGAのTopベンダ、Xilinx社の日本法人、ザイリンクス(株)の新春記者懇談会兼、東京エレクトロンデバイス社との共同新製品発表記者会見。
冒頭、NECエレクトロニクスの出身で昨年4月、ザイリンクス(株)の社長に就任した吉澤仁氏 (写真左)が、2005年におけるザイリンクス社のハイライトと2006年の戦略を発表した。これによれば、昨年、ザイリンクスは90nmプロセスを使用したハイエンドFPGA、Virtex-4と、低価格製品、Spartan-3の双方で着実にマーケット・シェアを拡大したとのこと。この記者会見の約1週間後に発表されたXilinxの2005年10-12月期の売上は前年同期比27%増 (前四半期比13%増) の449.6Mドルと好調を維持している (ライバルのアルテラ社の同四半期の売上げは約282Mドル)。また、吉澤氏は2006年において、従来の通信機器市場に加え、民生電子機器、車載機器、産業用電子機器分野への取組みを強化する方針であると述べた。これら市場に対する販売戦略として、同社は単にデバイスを販売するだけでなく、ユーザの開発期間を短縮するためのリファレンス・デザインや開発プラットフォームとなる評価ボードを積極的に提供していく予定である。その一例として、同社の日本における主要販売代理店である、東京エレクトロンデバイスと共同開発した「Spartan-3Eディスプレイ・ソリューション・ボード」がこの記者会見で発表された (プレス・リリース文)。

発表されたこのボードは東京エレクトロンデバイス社が展開する自社ブランド、Inrevium製品のひとつで、FPGAを使用したフラットパネルTV、リアプロジェクションTV、デジタル・プロジェクタ等の最先端ディスプレイ・アプリケーションの設計および評価を迅速に行うための開発プラットフォームとなっている。ボード上にはザイリンクスのSpartan-3Eデバイス (XC3S1600E) の他に、DDR SDRAM (512Mb/16bit) が4個搭載されており、映像データのフレーム処理等が可能になっている。また、オプションのボードを接続することにより、DVIやCamera Link信号、USBなどとのダイレクト・インタフェースも可能になる。このボードは東京エレクトロンデバイスから\144,000 (税抜き) の価格で販売されるだけでなく、Xilinxの世界的な販売ネットワークでも販売される模様だ。

(ボードの詳細はこちら

 

発表した東京エレクトロンデバイスの砂川社長と「Spartan-3Eディスプレイ・ソリューション・ボード」

東京エレクトロンデバイスは、日本の半導体商社の中で高い技術力を持っていると高く評価されている。同社は前述の自社開発した各種のボードやASSP製品を、Inreviumブランドで販売しており、ザイリンクス関連製品としては、PCI-Express/DDR2 SDRAMインタフェース評価用ボードなどがすでに販売されている。

1月25日 ザイリンクス(株)、(株)PALTEK共同記者会見

上記の記者会見が終了してから暫くして、ザイリンクスから再び「緊急記者会見を開催」の連絡があり、「何事か?」と駆けつけた。結局、この緊急記者会見は昨年11月に発表され、我々を大いに驚かせた(株)PALTEKとの販売代理店締結の合意が正式な契約締結に至り、2月から販売活動を開始することになったという発表であった(詳細はこちら)。  
記者会見には吉澤社長をはじめとするザイリンクス(株)の首脳と共に、PLATEKの高橋社長と高崎副社長が出席していた。これまで、20年余にわたってアルテラ社の代理店として成長を遂げてきたPALTEKだが、高橋社長によれば、昨年アルテラ側から一方的に代理店契約破棄の通告があり (2006年3月末で解約解除)、アルテラのライバルであるザイリンクス社へ代理店契約の話をPALTEK側からもちかけたとのことであった。出席した記者からは「昨日までザイリンクスのザイリンクス製品よりアルテラ製品のほうが良いと言っていた営業マンが、今度はザイリンクス製品のほうが良いと言う訳だが、現場に混乱は生じないのか?」「ザイリンクス製品に関する知識や設計ノウハウなどを短期間で習得できるのか?」などという厳しい質問が高橋社長に浴びせられていたが、これまで全売上げの約7割をアルテラ製品に依存していたPALTEKにとって、アルテラからザイリンクスへの乗り換えは苦渋の決断だったことは想像に難くない。一方、世界のFPGA市場でトップシェアを確保しながらも、僅かの差とはいえ日本市場ではアルテラに後れをとっているザイリンクスにとっては、PLD/FPGAビジネスに熟知したPALTEKを販売代理店に加えることで、現在の日本市場での地位を早急に逆転したいという期待もあって、今回の契約に至ったのであろう。今後は、ザイリンクス側からどのような顧客がPALTEKに移管されるのかが焦点になる。この点についてザイリンクス側からは「基本的に、当社製品をどの代理店から購入するかは、各顧客が決定する。」という説明がなされた。

XilinxとPALTEKのロゴが並ぶ前で話す高橋社長

それにしても、PALTEKの創業前から、また20年余にわたってアルテラ製品の販売に奮闘してきた高橋社長を知っている当方にとって、XilinxとPALTEKの両社のロゴが並んでいた記者会見会場の壁紙、そして高橋氏がザイリンクス社の記者会見にいる光景はちょっと不思議な感じがした。同時に時代の流れと業界の変遷を実感した次第である。

1月20日 日本AMD新春記者懇談会

 

方針を語るユーゼ社長

日本のPC市場でも盟主、インテルへの攻勢を強めている日本AMDの新春記者懇談会が行われた。当方としては、AMDがX86製品だけでなく、AlchemyやGeodeなどの組込み市場向けプロセッサをどのような戦略で日本市場にプロモーションするかについて知りたいと思い、この記者会見に参加した。記者会見の冒頭、昨年、日本AMDの社長に就任した、デービット・ユーゼ氏が2006年はPC、Server/Workstation、民生用電子機器、法人顧客の4分野にAMDの最新デュアル・コア・プロセッサを拡販していく決意と販売戦略を熱っぽく語った。これによれば、今年は特にPCや民生用電子機器市場向けに、低消費電力のデュアル・コア製品、AthronX2やTurion64などを拡販していく。今年の春には、モバイル機器用向け低消費電力64ビット、デュアル・コア製品も発表する計画があるとのことであった。

 

一方、Server/Workstation、エンタープライズ向けにはデュアル/マルチ・コアのOpteronをプッシュする。特に、エンタープライズ向けには、デバイスだけでなく「ソリューション」の提供に力を入れる。このために、日本AMD内に「市場開発営業部」を昨年、組織化した。AMDは特に、プロセッサの性能を消費電力当たりの数値で表わす“ワット性能”の重要性を訴えていく方針だ。「データセンタなどに設置されるサーバ単位の低消費電力化を図り、冷却方法の簡素化、電気容量の低減を実現して運用コストを抑えるためには、この “ワット性能”が重要になる」とAMDは主張していた。

 

さて、当方の関心事であった組込みプロセッサ、AlchemyやGeodeについては、残念ながらこの記者会見での説明は全くなかった。しかし、関係者の話を総合すると、AMDはこれら組込み用プロセッサの開発を続けている模様であり、今年また新たな製品が登場することも期待できそうだ。これからもAMDの組込みプロセッサに注目しておく必要がありそうだ。

 

1月26日 日本テキサス・インスツルメンツ(株)新春記者説明会

 

アナログ/ミックスド・シグナルICとDSP製品で好調な業績を維持している日本テキサス・インスツルメンツ (日本TI) が記者説明会を開催した。
この説明会では、最初に山崎俊行社長が2005年のTI社の業績を報告した。2005年における同社の売上げは前年比6%増の13,392 Mドル、税引き後純利益は2,324Mドルとなった (業績発表資料)。売上げのうち、アナログIC製品が全体の40%、DSP製品が40%、汎用ロジック、マイクロコントローラ、DLP製品などのその他の製品が20%を占めた。
市場調査会社のデータによれば、同社はアナログICとDSPで世界のトップ・サプライヤの地位にあり、アナログICでは約14%、DSPでは約50%のシェアを確保している。

 

挨拶する日本TIの山崎社長

山崎社長は、アナログICに関して2006年に製品ラインアップの強化、新分野の開拓、販売体制の強化を図ると述べた。同社は今年、アナログICに関して500種類以上の新製品を投入する予定だという。一方、特に強みを発揮している、携帯電話、ワイヤレス・アプリケーションについては、次世代携帯電話用新OMAPプロセッサと1セグ放送に対応したシングル・チップのDigital TVレシーバ・チップ (Hollywood) のプロモーションに力を入れる。また、山崎社長は、ディジタルTV用途に向けた高品質オーディオ・アンプやデータ・コンバータ、HDTVデコーダなどの製品をプロモーションし、最終製品での差別化が図れるソリューションをユーザに提供すると述べた。

 

・ ディジタルAV、コミュニケーション開発用プラットフォーム、DaVinci

 

この記者会見では、昨年9月に同社が発表したDSPベースのアプリケーション開発プラットフォーム、Davinci(ダビンチ)の詳細を説明すると共にその最初の製品のデモンストレーションを行った。
昨年から主要なプロセッサ・ベンダーは、自社のプロセッサを使用したアプリケーション・システムの開発環境を「プラットフォーム」と呼び、評価ボード、OS、デバイス・ドライバ、ミドルウェアなどを含めたトータルなサポートを提供するようになった。

 

TIもC64X コアDSP+ARMコアのプロセッサ・ファミリに対する開発環境を「DaVinci」の名前で提供してゆくことになった。デバイスだけでなく、Linux OSをベースにした各種ミドルウェア、開発ツール、評価ボードなどを一括してユーザに提供して、ユーザのシステム開発期間の短縮を実現することを狙う。このDaVinciプラットフォームの対象となる最初の製品が、昨年12月に発表されたTMS320DM443、TMS320DM6446のディジタル・メディア用プロセッサである(発表資料)。DM6443はビデオ・デコーダ用で、DM6446はビデオ・デコーダ/エンコーダ用である。このうち、TMS320DM6446は300MHz動作のARM926ESJ-Sと600MHz動作のC64x DSPコアを搭載しており、ビデオ信号処理用のフロントエンド、表示デバイス用のバックエンド機能をペリフェラルとして内蔵している。
このデバイスに対するDavinciプラットフォームでは、montavista社のLinux OSをはじめ、メディア・コーデックなどのソフトウェア群とディジタル・ビデオ評価ボード、DVEVMが提供される。記者会見では、このDVEVMのデモが披露された。

 

ディジタル・ビデオ評価ボード、DVEVM

このボードにはNTSC/PAL対応のカメラとLCDインタフェース、ビデオのエンコード/デコード処理機能が搭載されており、ビデオ・ストリームから新たな画像処理を行う機能も提供される。ビデオ入出力、ネットワーク・インターフェイス、記録メディア・インターフェイス、標準ドーター・カード・インターフェースも提供されているため、このボー路を活用することでビデオ関連のアプリケーション・システムの試作が容易になる。
TIでは、今後、ディジタル・カメラ、IP TV電話、監視カメラ、セットップボックスなどの用途に最適化されたプロセッサ・ファミリとDavinciプラットフォームを順次開発、提供して計画である。DSP+ARMコアのSoCをターゲットにしたTI社の開発プラットフォームが今後、従来のDSP製品と同じように業界スタンダードとして市場に受け入れられていくのか、注目していきたい。

 

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