記者会見 NO-12
低消費電力の不揮発性FPGAを開発したSiliconBlue社が最初の製品ファミリを発表
日本市場にも本格参入

SiliconBlue社のCEO、
Kapil Shanker氏

米国シリコンバレーのファブレス半導体ベンチャー企業、SiliconBlue Technologies社がこのほど、CEOのKapil Shanker氏を含む幹部が来日して都内で記者会見を開き、同社が開発した、携帯機器向けの超低消費電力不揮発性FPGA製品、iCE65ファミリの概要などを発表した。同社は、すでに日本でも大手半導体商社を通じてマーケティング、販売活動を開始しており、近くこの商社との販売代理店契約を交わして、日本市場への本格参入を図る構えだ。(同社のプレスリリースは、こちら

65nm CMOSプロセスによる超低費電力のNV FPGAを製品化

SiliconBlue Technologies社が発表したFPGA、iCE65ファミリは、これまでFPGAがもっとも苦手としていた低コストで低消費電力が要求される民生用携帯機器をターゲットに開発されたデバイスである。iCE65ファミリはTSMC社の65nmローパワーCMOSプロセスを採用したSRAMベースのFPGAだ。 論理セル自体にFlashメモリ技術を採用しているアクテルの FPGA(IGLOOシリーズなど)などとは異なり、iCE65ファミリはシリコンバレーのベンチャー企業、Kilopass社が開発したスケーラブルな不揮発性(Non-Volatile)RAM技術をベースにしたコンフィギュレーション用メモリをデバイス内部に内蔵させることで不揮発性を実現している。
同社は、微細プロセスの採用によって生じるリーク電流の増加を、回路設計技術などによって回避して低消費電力化を実現した。例えば、内蔵されるRAMブロックは、リーク電流が少なくなるレジスタ・ファイル構造を採用した。また、論理セルを構成するLUTの実現方法などにも工夫を凝らし、待機時および動作時の消費電力を削減した。最先端の65nm CMOSプロセス技術の導入によって、1.0Vの電源電圧を使用することでもトータルな消費電力を削減することができる。同社は、これらの超低消費電力特性によって、他のFPGA製品に見られる、スタンバイ・モードやスリープ・モードなどの煩雑な動作モードの変更による低消費電力化対策が不要になると主張する。

iCE65ファミリ

同社が発表したiCE65ファミリは、4入力LUTをコアにしたロジックセル(LC)数で1,782個、3520個、7,680個の3種類の製品で構成される。内部には4Kビット単位のRAMブロックが搭載されており、LVDSをサポートしたピンを含むI/Oが最大で222本まで提供される。iCE65ファミリの製品構成は、以下の通りである。

製品名

iCE65L02

iCE65L04

iCE65L08

LC数

1,792

3,520

7,680

最大I/O数

128

176

222

最大差動I/O数

18

25

36

内蔵RAM bit数

64K

80K

128K

Icc 32KHz以下

25μA

50μA

100μA

Icc 32MHz動作時

5 mA

9 mA

20 mA


上記のiCE65ファミリは、コンフィギュレーション・データを外部メモリから供給する揮発性タイプのデバイスと、kilopass社の技術をベースに開発された不揮発性コンフィギュレーション・メモリ(NVCM)を内蔵した不揮発性タイプのデバイスの2種類で供給される。これは、NVCMが「one-time programmable」のためと考えられる。開発時には揮発性タイプのデバイスでデバッグし、デザインが確定した段階で不揮発性タイプのものに切り替えるような使用方法が可能になる。揮発性のデバイスと不揮発性のデバイスは完全ピン互換になっている。揮発性デバイスでも不揮発性デバイスでも同一パッケージであれば、量産時の価格には差がないとのことであった。
その他、デバイスの最高動作周波数とその時の消費電力、クロック用PLL回路の有無などの詳しい情報は残念ながらこの記者会見では公表されなかった。
現在、同社のwebサイトからはデータシートなどの詳細情報がダウンロード可能になっている(ダウンロードページは、こちら)。

入手可能時期と価格

現在、入手可能になっているのは、iCE65L02とiCE65L04の揮発性タイプのもので、本年10月から来年4月までに不揮発性デバイスを含む全品種が入手可能になる予定。提供されるパッケージは、実装面積に制限がある携帯機器への搭載を意識した最小で3×4 mmサイズの80ピンBGAタイプのものから、12×12 mmサイズの284ピン・タイプまで各種、提供される。
同社によれば、iCE65ファミリは低コストが要求される携帯用民生機器にも採用可能な価格で供給可能であると説明し、量産価格がiCE65L02で1.50ドル、iCE65L04で2ドル、iCE65L08で4ドル程度になると発表した。

開発環境と評価ボード

SiliconBlue社のFPGAの設計開発には、同社の設計ツール、iCECUBEが提供される。この開発環境は、FPGA業界としては比較的馴染み薄いMagma社の合成ツール、タイミング・ドリブンの配置配線ツールなどをベースにしたものとなっている。また、同社はiCE65L04を搭載した評価ボードを含む評価キット、iCEman65を提供する。(参照:http://www.siliconbluetech.com/iCEman65/index.html

40nmプロセスへの移行も視野へ

SiliconBlue社は、iCE65ファミリの製造を40nm プロセスに移行させた、次世代製品、iCE40ファミリの開発も進めている。このiCE40ファミリには、ロジック・セル数が16,896個、内蔵RAMが384Kビット、最大I/O数が384本の最高集積デバイス(iCE40L16)が加わる予定である。同社はiCE40ファミリの開発を2年以内に終える計画とのこと。

Ex-MMI All Stars ? 業界のベテランが集結したSiliconBlue社

SiliconBlue Technologies社は2006年6月に現CEOのKapil Shankar氏などがベンチャーキャピタルの支援を受けて立ち上げた会社だ。同社の経営陣には、PLD/FPGA業界で長年活躍したベテラン達が数多く名を連ねている。特に目立つのは、PLDの黎明期にPALという商品で名を挙げたMonolithic Memories Inc. (MMI、後にAMDに吸収合併)出身の人達である。CEOのKapil Shankar氏および開発部門担当副社長のAndy Chan氏もMMI社の出身であり、ストラティジック・マーケティング担当副社長に就任しているJohn Birkner氏こそ、MMI社でPALを発明したことで知られる有名人だ。
PALとは、AND-ORアレー構造の双方がプログラマブルだった当時のシグネティックスのFPLA(IFLとも呼ばれた)を変形して、AND-ORのOR部を固定化してANDアレーのみをプログラマブルにして設計を単純化したデバイス。この単純化によって論理式からデバイス内部の構造を決定するプログラミング・データを生成するROMベースのアセンブラが実現され、PALの普及が大いに促進された。
1980年代の半ば、John Birkner氏はMMI社からPALでの成功を記念して贈られたというポルシェの最高級車を保有していたが、そのクルマのナンバープレートに「PAL」の文字が刻まれていたのが今でも思い出される。Birkner氏は、その後、アンチヒューズ・ベースの高速FPGAベンダ、QuickLogic社の設立にも関わった。

営業担当の副社長に就任したのは、つい最近までLattice Semiconductor社の上級副社長を務めていたSteve Donovan氏である。Donovan氏は1980年代後半にAMD社からMMI社に移籍し、MMI-Japan社のGeneral Managerに就任したが、その直後にMMI社が古巣のAMD社に買収されるという珍しい経験も有している。同氏は、その後、AMDのPLD部門が分社して誕生したVantis社、そのVantis社が吸収されたLattice Semiconductorで長く営業部門の要職を務めてきた。このように、SiliconBlue社にはかつてのMMI社で重要な役割を果たした人物が集結したようにも見える。

日本担当となった
ジャック・チュウ氏

一方、SiliconBlue社で日本市場の営業担当となっているのは、Xilinx社の日本法人で営業統括部長などを務めていた、ジャック・チュウ氏である(写真、左)。SiliconBlue社は、チュウ氏を中心にして既に大手電気メーカーなどを対象にマーケティング、営業活動を開始している。前述の通り、近く日本の大手半導体商社と販売代理店契約を結び、ゲーム機やディジタル・カメラなどを含む携帯電子機器の世界的な開発拠点でもある日本市場への本格参入を目指すことになる。

既存のPLD/FPGA企業との戦い

過去20年間のPLD/FPGA業界を振り返れば、デバイス・ベンダの整理統合と大手ベンダによる市場の寡占化が進行し、デバイス・ベンダの数は大幅に縮小されてしまった。
多くのPLD、FPGAベンダの合併吸収、および撤退や廃業によって、現在この市場にはXilinx、Alteraの2大メーカー、ActelとLattice Semiconductorの中堅2社にQuickLogicを加えた計5社が存在するだけとなった。
今回の記者会見でSiliconBlue社は、同社が過去12年間の中で誕生した最初のFPGAベンダであると我々に説明した。確かに、純粋なFPGAベンダとしては、その通りかもしれない。しかしながら、この10年間でも、我々はASICにFPGAのブロックを搭載したデバイスを開発したLeopard Logic社やASIC専用の FPGAをIPコアとして提供しようとしたAdaptive Logic社、1クロックでLogicの構成をダイナミックに変更可能なデバイスを発表したQuick Silver社など、FPGA機能を搭載したデバイスやFPGAに類似したデバイスを開発した新興企業も目にしてきた。遺憾ながら、これらの会社や製品は、いずれも市場に受け入れられることもなく、はかなく消えてしまった。果たして、今回のSiliconBlue Technologies社とその製品はどうであろうか? PLD、FPGAの業界で豊富な経験を積んできたベテラン達を集めた同社が、既存の大手サプライヤの間隙をついて、どのような成長を果たすのか、大いに注目されるところだ。

2008年6月
EIS編集部 中村正規

 

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