記者会見 NO-4
2005年1月6日 ACTEL社、ProASIC3/E発表記者会見

リポータ:EIS編集部 中村

業界第3位のFPGAベンダである、アクテル社が、新たに開発したFLASHベースFPGA製品、ProASIC3およびProASIC3Eの発表記者会見を、東京都内で開催した。
会見に出席したのは、同社日本法人の代表である岩本桂一社長と、米国本社のマーケティング担当副社長、Dennis Kish氏だった。

岩本桂一アクテル・ジャパン社長(右)とDennis Kish氏(左)

アクテルにとってのFLASH FPGAとは?

1985年設立のアクテル社は、Anti-FuseベースのFPGAベンダとして知られているが、2000年にZyCad社の傘下でFLASHメモリ・ベースのFPGAを開発していたGateField社を買収し、それ以降、工業、民生機器市場にはこれらFLASHベースのFPGA製品、ProASICファミリをプロモーションしてきた。同社によれば、FLASHベースのFPGA製品を採用したデザインは2002年から急速に増加し、2004年にはAnti-Fuse FPGAのデザイン数にも匹敵する件数までになっているとのことだ。今回発表した、ProASIC3およびProASIC3Eは、同社の現在の主力製品であるFLASHベースの第2世代FPGA製品、ProASIC Plusの機能強化と集積度の向上を実現した第3世代品に相当する。同社はFLASHベースのFPGA製品を「Value -Based FPGA」と位置付け、外部メモリを必要としない不揮発性デバイスの特長が生かせる民生/通信/工業用製品市場への拡販を行ってきた。今後は、今回発表した第三世代のFLASH FPGAをこれらの市場へさらに強力にプロモーションしてゆくことになる。現在のところ、FLASHベースのFPGAデバイスを供給しているのは、アクテル社のみである。

ProASIC3とProASIC3Eの違いは?

今回発表されたProASIC3とProASIC3Eは基本的に同じアーキテクチャを採用しており、集積度(タイル数)、RAM容量、最大I/O数、内蔵PLL数など点が異なる。

 ProASIC3とProASIC3Eの比較

 

システム・ゲート数

VersaTile数

SRAM容量
(ビット)

最大ユーザ
I/O数

内蔵PLL数

ProASIC3

30K〜1,000K

24,576

最大144K

288

ProASIC3E

600K〜3,000K

75,264

108K〜504K

616

いわば、ProASIC3は低コスト市場向け、ProASIC3Eはハイエンド用途向け製品といった違いだ。

ProASIC3/Eの特長は?

今回発表された、ProASIC3およびProASIC3Eの主な特長としては、

1)

第2世代製品ProASIC Plusの性能をさらに強化し、350MHzまでのクロック周波数、64ビット/66MHzのPCIをサポート

2)

ProASIC3Eでは、第2世代品の3倍に相当する高い集積度(最大3,000Kシステム・ゲート)を実現

3)

外部接続のコンフィギュレーション・メモリを必要としない高集積1チップFLASHソリューション

4)

電源投入後、10μ秒以内にすぐに動作を開始し、SRAM FPGAのような電源立ち上げ時におけるコンフィギュレーション動作に関連したトラブルなどが発生しない。

5)

1.024ビットのユーザFLASHメモリ領域を内蔵

6)

各種のセキュリティ機能をサポート

7)

LVDSを含む19種類の標準I/O規格をサポート

8)

単一1.5V電源による低消費電力動作とイン・システム・プログラミング機能

などを挙げることができる。
このうち、まず1)の性能の強化に関して、アクテル社はProASIC3がザイリンクスの Spartan-3よりも高速になると発表した。同社は、22種類のデザインを使用して、同一スピード・グレードのSpartan-3とのベンチマーク・テストを実施した結果、ProASIC3がSpartan-3よりも平均で16%高速に動作するという評価データを得たという。
上記の3)、4)、5)、6)については、現在のFPGA市場を席巻しているSRAM ベースFPGAと比較した場合の優位点ともなっている。これらの中で、特に目に留まるのは、5)に示されている、1,024ビットのユーザFLASHメモリ領域かもしれない。これは、128×8ページ構成のユーザ・プログラマブルな不揮発性メモリ領域になっており、ユーザはこのメモリ領域を利用して、暗証コード、IPアドレス、日付、製品のシリアル番号や製造ロット番号などを書き込み、必要に応じて更新することもできるため、これまでにない新しい応用分野の開拓が期待される。

 

ProASIC3/Eの量産は、2005年第4四半期から開始される予定になっており、製造は同社のファンダリ・パートナである、UMC社またはInfineon Technologies社で行われるものと予想される。今回の会見では、量産時の予定価格などについての発表はなかった。

狙っている市場は?

アクテル社は、現在のFPGA市場は
・ 80%のデザインが、100万ゲート以下の規模
・ 75%のデザインが、140MHz以下の動作周波数
・ 94%のデザインで、使用されるユーザRAM領域512Kビット以下
である分析し、同社のFLASHベースのFPGAは今後も急成長が期待される100万ゲート以下の領域を中心にした用途をターゲットしているようだ。今回、発表されたProASIC3/Eも、不揮発性メモリ素子を使用したデバイスの特長が生かせる、ロー・エンドからミッド・レンジまでの民生、通信、工業用のアプリケーションになると思われる。

開発環境は?

ProASIC3/Eのデザインは、同社の統合開発環境、Liberoの最新バージョン、v6.1でサポートされ、Synplicity社の、Synplify、Mentor Graphics社のModelSimやLeonardoSpectrumなど、サード・パーティの各種EDAツールも使用可能になる。また、デバイスへのプログラミングは、同社が提供する専用プログラマ、FlashPro3でサポートされる。アクテルでは、LiberoのGold Edition、FlashPro3、さらにProASIC3デバイスを実装した評価用ボード、関連するドキュメントなどを1セットにしたスターターキットを2005年春から発売する予定である。また、ProASIC3/Eのデザインには、アクテルおよびサード・パーティから提供される90種類以上のIPコアが利用できる予定だ。一部のIPコアは同社のwebサイトからダウンロードして無償で評価することができる。

おまけ:ActelとSRAM FPGAの関係

今回の記者会見でアクテルは、FLASHベースのFPGAがSRAMベースのFPGAに比較して多くの優位点を持っていることを特に強調していた。今後、アクテルは、SRAM FPGAを供給するザイリンクスとアルテラの2大メーカの間隙を突いて、不揮発性デバイスの特長が生かせるアプリケーションを狙ってデザイン・イン活動を進めることになるだろう。
SRAMベースのFPGAには外部メモリが必要であり、電源投入時にコンフィギュレーション動作が必要になるというハンディがあるものの、現在市場に投入されているSRAM FPGAには32ビットのRISCプロセッサや高性能な乗算器がハードマクロとして内蔵されているデバイスもあり、ユーザが使用可能な最大RAM容量についてもProASIC3/Eよりも遥かに大きいデバイスがあり、これらの点でSRAM FPGAの優位性はゆらぎそうにない。
一方、アクテル社が、SRAM FPGAと全く無縁なのかといえば、そうでもない。アクテル社は、数年前にVariCoreというSRAM FPGAをIPコアとして発表し、ASICベンダなどへのライセンス販売を試みたことがある。最近、同社からこのVariCoreに関する発表は全くなくなってしまったのだが、このVariCore、現在でも同社のIP製品群の中に存在している。
この記者会見に来日したKish氏にこの点を確認したところ、VariCoreに関するマーケティング活動をすべて中止したわけではないとのことであった。かつて、LSI Logic社にSRAM FPGAコアを提供していたAdaptive Siliconという会社もいまは事業を閉鎖したようだし、
FPGAコアを内蔵したASICを供給しているLeopard Logic社の製品もまだ市場に受け入れられているようには見えない。ストラクチャードASICとFPGAとの競争が激しくなる中で、FPGAのIPコアがASICの中に組み込まれるようになるのかどうかについても注目しておきたいものだ。

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