記者会見 NO-11
ニューモニクス・ジャパン合同会社 事業説明会

3月31日に世界的な大手半導体企業、インテル社とSTマイクロエレクトロニクス、および投資会社であるフランシスコ・パートナーズの合弁会社としてスイスに正式に設立された、Flashメモリ専業の半導体企業、Numonyx B.V.の日本法人である、ニューモニクス・ジャパン合同会社が4月22日午後、都内で記者会見を開き、今後の事業計画などを説明した。

Numonyxとは?

Numonyxとは、古代ギリシャ語で「記憶を助ける技術」を意味するらしい。インテル社とSTマイクロの両社は、変動の激しい価格と需要、的確な市場予測に基く設備投資計画、マイクロプロセッサやASSP(特定用途向け標準製品)とは異なるセールス手法など、メモリ・ビジネスの特殊性に対応した専業メーカーへの設立に動いた。
この合弁会社の設立が発表されたのは昨年の5月。当初は昨年末までに新会社が設立されるはずだったが、サブプライム・ローン問題などによる金融市場の混乱もあって、正式な発足は今年3月末と若干遅れたが、新会社はSTマイクロが約49%、インテルが約45%、フランシスコ・パートナーズが約6%という計画通りの出資比率でスタートしている。

CEO のBrian Harrison氏

STマイクロからはNOR、NANDの全Flashメモリ製品が、またインテルからはNOR型Flashメモリの製品と技術が、この新会社に移管され、売上高で約30億ドルの新会社が誕生した。これにより、NOR型Flashに関しては、Numonyx がAMDと富士通の合弁会社、Spansion社を凌ぐ、世界NO-1のサプライヤとなったと考えられる。
Numonyx B.V.のCEOには、インテル社のFlash Memory Group(FMG)の責任者を務めていたBrian Harrison氏(写真)が就任している。新会社の全従業員は約7,000名。イスラエル、シンガポール、イタリアなどにウェハー工場を持ち、現在65nmプロセスによるNOR型Flashメモリを製造する能力を有し、45nmプロセスの導入も視野に入れているようだ。


同社は単体製品の供給だけでなく、System-In-Package(SIP)技術を活用して各用途に最適化した容量のNOR、NAND、DRAMを1パッケージに集積化する、Multi-Chip-Package(MCP)ソリューションのビジネスにも注力する計画である。大容量のNANDやDRAMチップについては、STマイクロが提携していたHynixから調達することも予想される。

一方、同社は新世代の不揮発性メモリ技術である、Phase Change Memory(PCM:位相変化メモリ)の分野で先行しており、すでにサンプル出荷も終えている。PCMは、RAMのようにビット単位でデータの書き換えと高速アクセスが可能であり、しかも従来のNOR Flashよりも低消費電力という特長を持つ。今年2月にインテルとSTの両社から90nmプロセスによる128Mb品のサンプル品が出荷されたことが発表されている。

日本法人は?

写真左が吉田幸二社長、右は桑原弘明技術部長

同社の日本法人は、理由は定かではないが、通常の株式会社ではなく、2006年の商法改正で誕生した「合同会社」( 解説はこちら)という新しい形式を取って設立されている。日本法人の社長に就任したのは、インテル出身の吉田幸二氏(写真左)。東京の本社事務所は、STマイクロ社の日本法人と同じ、品川のインターシティA棟に置かれ、大阪にも営業所を開設している。



日本法人の従業員は約70名で、設計、製造などの部門は持たないが、マーケティング、セールス、技術サポートの他、日本ユーザーのニーズを的確に本社へ伝達して日本市場向けの製品を実現する役割を担う。日本の販売代理店については、インテル、STマイクロの両社の代理店をそのまま引き継ぐ形でスタートしているが、今後は担当顧客の重複を避けるための見直しが予想される。
同社が特に日本市場で特に力を入れるのは、ディジタル家電、携帯電話、カーナビなどの組込み機器分野とのことである。同社は日本法人内に「エンベデッド・ビジネス・グループ・ジャパン」という部門を設立し、日本の組込み機器ユーザーに特化した技術サポートとマーケティング活動を本社と直結した形で行う。

合弁会社の今後は?

ビジネス・モデルが他の半導体製品と大きく異なるメモリ製品の事業部門を分社化し、営業の効率化、損益の明確化、投資タイミングの最適化を図るのは、ここ数年の半導体業界の趨勢である。ただし、今回の誕生したNumonyx社は、日立とNECが中心になって設立した合弁企業、エルピー・メモリ社や、ドイツのインフォニオンがメモリ製品部門を100%の子会社として誕生させたQimanda社の例とは異なり、国籍の異なる世界的な大手半導体企業2社が設立した合弁企業である。国籍が異なり、異なる文化を持った企業が合併または設立して誕生する合弁企業の運営というのは、そう容易なものではない。我々は過去にこうした合弁会社が抱えた苦難を何回も目撃してきた。国籍の異なる合弁会社の代表的な成功例のひとつは、今回の一方の出資者でもある、STマイクロエレクトロニクス社だろう。フランスのトムソン・セミコンダクターとイタリアのSGS社が合併して誕生した同社はアメリカ仕込みの企業文化と運営手法を持ち込んだ、初代CEO、ピストリオ氏のリーダーシップの下で着実な成長を果たし、このところ世界第5位の半導体メーカーの地位を維持している。同社は、メモリ製品については今回のNumonyx社、さらに最近になって携帯/ワイヤレス関連製品についてもNXPセミコンダクター社と設立する合弁会社に移管することを発表している。合弁会社の運営で豊富な経験を有するSTマイクロ社が、世界の半導体市場で圧倒的な地位を維持しているインテルとの合弁会社、Numonyx社でも、また同じ欧州のライバル会社、NXP社とのワイヤレス製品の合弁会社でも、成功を収めることができるのか、注目して見守りたい。また、Numonyx社の日本法人内に設立された「エンベデッド・ビジネス・グループ・ジャパン」の活動にも、日本の組込みシステム業界に身を置く一人として大いに期待したい。

レポータ:EIS 編集部 中村正規



 

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