記者会見 NO-13
ルネサス テクノロジ、
カーナビ用SH-4Aデュアル・コア・プロセッサ、SH7786
発表記者会見

[写真]記者会見に臨んだルネサスの幹部
左から三木務マイコン統括副本部長、平尾眞也自動車応用第二技術部長、岡田豊システムソリューション第4事業部CIS設計部長

組込み用マイクロプロセッサの世界でもマルチ・コア化が進展しているが、ルネサス テクノロジが都内で記者会見を行い、65nmプロセスを用いたSH-4Aのデュアル・コア・プロセッサ、SH7786を発表した。このデュアル・コア・プロセッサは、AMP(非対称型)およびSMP(対称型)の双方のマルチ・コア構成に対応しており、特にカーナビをはじめとする高性能なマルチメディア機器をターゲットにしたものだ。
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90nmプロセス品からのアップグレード製品

ルネサスはすでに90nmプロセスによるSH-4Aデュアル・コア・プロセッサをすでにサンプル出荷しているが、今回発表された新製品は、65nmプロセスを採用して低消費電力、高性能化を図ると共に、外部メモリとのインタフェースにDDR-3 SDRAMとの接続が可能な32ビット専用バスを新たに内蔵させたことにより、最大で4.27Gバイト/秒の広帯域データ転送を実現している。また、柔軟性に富んだマルチ・レーンのPCI Expressインタフェースを搭載し、外部接続のグラフィック・チップ、DVD、HDDなどとの接続を容易にした。
各CPUには倍精度の高速演算処理が可能な浮動小数点演算器(FPU)が接続されている。
このデバイスに内蔵されているSH-4Aコアは単体で533MHzの動作時に960MIPSの性能を実現し、チップ全体では最高1920MIPSの動作性能が達成可能だという。
また、CPUコアごとにスリープ、ライト・スリープ、モジュール・スタンバイの3種類の低消費電力モードがサポートされており、システム・レベルでの低消費電力化を実現する。

AMPとSMPの双方のマルチ・コア構成をサポートするため、、SH7786では共有メモリの分離・アクセス機能およびCPUコア間の効率的な連携機能を実現する内部インタフェースが実現されている。
その他、このデバイスには各CPUに高速アクセスが可能な8Kバイトの命令用RAMおよび16KバイトのデータRAMが内蔵されており、32Kバイトの命令およびデータ・キャッシュ・メモリがCPUごとに搭載されている。
また、外部との通信インタフェースとして、上記のPCI Expressの他、USB 2.0および100MbpsのイーサネットMACなども集積化されている。

QNXがサポートし、独自のマルチコア開発環境も準備中

マルチコア・プロセッサを使用したシステムのソフトウェア開発は簡単ではなく、ユーザはAMP、SMPの双方の構成での効率的な開発環境と使いやすい設計・デバッグ・ツールを求めている。このデュアル・コア・プロセッサは、マルチ・コア・プロセッサ用リアル・タイムOSで先行するカナダのQNX Software SystemsのNeutrinoおよび同社の統合開発環境、Momenticsの最新バージョンでサポートされると発表された。 QNX社は、ルネサス社にSH7786に対するサポートを同時に発表している(QNX社の発表資料はこちら)。 また、ルネサスは、このデバイスのソフトウェア・デバッグに使用できるエミュレータ、E10A-USBを提供する。このエミュレータはUSBを介して単独で複数のCPUの実行、停止を制御することができる。
ルネサスでは、複数のOSを使用する機能分散型マルチ・コア・システムのソフトウェア開発を容易にする新たな開発支援システムを開発中であり、来年後半からその提供を開始する予定だとのこと。

この新製品は今年10月からサンプル出荷される予定であり、量産開始は来年12月が予定されている。サンプル出荷から量産までの期間が長いのは、この新製品を採用する予定のユーザの開発、量産計画と関係があるのかもしれない。

カーナビなどの高性能マルチ・メディア機器がターゲット

この製品はカーナビなどのハイエンド・マルチ・メディア機器をターゲットにした製品であり、ルネサスはパーソナル・ナビゲーション・デバイス(PND)のようなローエンドのアプリケーションには、SH-Mobileファミリで対応する。ハイエンドのカーナビ製品では、従来の地図情報の表示機能に加えて、オーディオ・ビデオなどのマルチメディア機能、クルマ内部のネットワーク通信およびテレマティックスを含む外部との高速通信機能、運転支援・安全関連機能など、多機能化が進展しており、複雑化するシステムの実現にはマルチ・コア・プロセッサの採用が必須になってきている。
すでにNECエレクトロニクスは昨年秋、4つARMコアとグラフィック・コントローラなどを1チップに集積化した、「NaviEngine」を発表している(発表資料を参照
内蔵コア数が異なるものの、このNEC製品の最高性能もSH7786と同じ1920MIPSになっているのは非常に興味深い。
ルネサスでは、SH7786にグラフィック・コントローラも付加したカーナビ用SoC、および4個のSH-4Aコアを内蔵したデバイス、さらには4個のSH-4Aコアとグラフィック・コントローラを1チップに集積化した製品も開発中であることを明らかにした。

組込みプロセッサの分野の勝者は?

ここ何年もの間、国内外の組込み用プロセッサのベンダは情報家電、携帯通信機器、そして車載用機器の主要な市場でのビジネスをターゲットにした数多くの新製品を開発して、激しい競争を繰り広げている。特に最近は、主要ベンダがこぞって比較的長期間にわたる安定したビジネスが期待できる車載機器の市場に力を注いでいる。ただし、車載機器とはいっても、膨大な規模のソフトウェアが搭載され、ユーザが嗜好に合った製品を選択して購入する傾向があるカーナビゲーションの市場はクルマ自体の走行や動作を制御するECUなどは異なり、むしろ薄型TVを含む情報家電に近い性格を持っているように思われる。
小生から見る限り、このような市場での戦いでの勝利者を決める要因は、デバイスのアーキテクチャの優劣、最先端プロセス採用の有無、デバイス単体の最高MIPS値などよりも、次第にいかに簡単に短時間で目的のシステム機能を実現できる環境を提供できるか、に移行しているように思われる。すなわち、デバイス単体での性能やアーキテクチャも重要ではあるが、最終的にはユーザに使いやすいソフトウェア開発環境、優れたリファレンス・デザインと幅広いミドルウェア群、幅広いサード・パーティのツールによるサポート、さらにはきめ細かい技術サポートを提供できるベンダがこの戦いに勝利するような気がしている。
先の北京五輪の女子ソフトボール競技では、上野投手をはじめとするルネサスから選出された選手の活躍で日本チームが宿敵の米国を破って念願の金メダルを獲得した。現在、ルネサスは車載用プロセッサの市場で Freescale Semiconductor社に次いで世界第2位の地位を占めている(ガードナー社調べ)。ルネサスがFreescale社を追い越してこの車載用組込みプロセッサ市場での金メダルを獲得するためには、日本だけでなく、米国、欧州、そして成長が期待されるBRICSの市場において、いかに多くのデザインを獲得できるかにかかっている。そのためには、上野投手のような卓越したデバイスと共に、今回の日本チームのようにサード・パーティ・ベンダを含む広範囲でしかも強固なチームワークが必要になるだろう。

2008年8月
EIS編集部 中村正規

 

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