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横田英史の読書コーナー

移民は世界をどう変えてきたか〜文化移植の経済学〜

ギャレット・ジョーンズ、飯嶋貴子・訳、慶應義塾大学出版会

2025.4.26  12:16 pm

 政治・経済・文化に関する種々のデータを分析することで移民の功罪を明らかにした書。政治制度が整い、農業が定着し、技術が進んだ国からどれだけの移住があったかによって国の繁栄は左右されるという。移民は移民先の国に繁栄をもたらすこともあるが、多様性重視による手放しの移民政策は禍根を残すと警鐘を鳴らす。どこの国から、どんなスキルを備えているかによって、移民が功になるか罪になるかが決まる。原書のタイトル「文化移植:移民はいかに移住先の国を移住元の国の経済と似たものとするか」が筆者の主張を的確に言い表している。労働力不足によって移民政策の是非の議論が日本で進むなか、強くお薦めできる書である。
     
 「民族の多様性それ自体が強みである」という移民政策の常套句は、時代遅れで非科学的だと断言する。例えば、民族的多様性と社会的信頼(他人を信頼する)には負の関係があえう。民族的多様性は社会的対立を増大させると語る。世界の最貧国から世界で最もイノベーティブな国(日米独英仏韓中)に毎年大量の移民が発生すれば、政府の質の低下や汚職の増加、社会的対立の激化や内戦リスクの増加を招く。イノベーションが全体的に停滞し、全世界的な損失となる。
     
 移民は母国の思想や国家感、経済的なイデオロギー、技術に対する姿勢を移民先に持ち込む。その影響は何世代にも及ぶ。しかも消え去ることはない。
良い事例として中国系移民を挙げる。過去に中国系移民が多ければ多い国ほど繁栄につながっていると分析する。世界で最も貧しい国々が中国系移民を十分に促進すれば、経済的可能性を劇的に向上させられるという。

書籍情報

移民は世界をどう変えてきたか〜文化移植の経済学〜

ギャレット・ジョーンズ、飯嶋貴子・訳、慶應義塾大学出版会、p.272、¥3300

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。