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横田英史の読書コーナー

Why We Die〜老化と不死の謎に迫る〜

ヴェンカトラマン・ラマクリシュナン、土方奈美・訳、日経BP 日本経済新聞出版

2025.3.20  11:55 am

 本アンチエージングの研究とビジネスの歴史と現状を論じた書。最新の生物学的な知見を紹介する。不老不死を願う心は古今東西変わらないが、ついに老年期の健康状態を改善し、最大寿命を延ばせる可能性が高まっているという。一方でノーベル化学賞の受賞者である筆者は、金儲けに邁進し、倫理に欠けるアンチエージングビジネスの現状に警鐘を鳴らす。同じく時代の先端を走るAIの研究とビジネスに通じるところがあり、色々と考えされられる。
     
 それにしても、ここ半世紀で生物学が解明した「老化や死に至るプロセス」の話は実に興味深い。ここ20〜30年で老化の大部分が、人体がタンパク質の合成と破壊をどう調整するかで決まるということが明らかになってきたという。遺伝子が生命の複雑なプロセスをコントロールし、細胞は損傷したDNAを修復する能力を備える、といった話は生命の神秘を感じさせ興味深い。若い血の中に成長を促し機能を高める因子があり、古い血には状況を悪化する因子が存在するというのも面白い。
     
 筆者は、アンチエージング産業が事業の社会的あるいは倫理的な影響にしっかり向き合っていないところを問題視する。このままではコンピュータ産業の轍を踏むと危機感を募らせる。寿命の延長が、医療格差によって階級の分断と固定化につながりかねない点にも言及する。

書籍情報

Why We Die〜老化と不死の謎に迫る〜

ヴェンカトラマン・ラマクリシュナン、土方奈美・訳、日経BP 日本経済新聞出版、p.400、¥2420

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。