横田英史の読書コーナー
脳科学で解く心の病 〜うつ病・認知症・依存症から芸術と創造性まで〜
エリック・R・カンデル、大岩(須田)ゆり・訳、築地書館
2024.6.15 8:44 am
これまでも脳関係の本を多く紹介してきたが、本書は5本の指に入る良書である。2000年のノーベル生理学医学賞を受賞した脳神経科学者が、精神疾患や芸術的創造性と脳や遺伝子との関係などについて論じる。脳神経科学の進展の学問的な解説だけではなく、身近な話題と関連付けて論じているのも良い。語り口は平易なので、スイスイ読み進むことができる。脳の性分化と性自認、依存症と脳との関係など、興味深い話題にも言及しており、多くの方にお薦めの1冊である。原著は2018年出版なので“最新”の知見とは言いづらい面もあるが、脳神経科学や遺伝子研究の進展の速さは十分に伝わってくる。
筆者は、哲学と認知科学、脳神経科学が融合して誕生した「新しい心の科学」を紹介する。新しい心の科学によって、心の本質がどこまで解明されたのかを精神疾患の切り口で伝える。扱う精神疾患の範囲は広い。自閉スペクトラム症、うつ病、双極性障害、統合失調症、パーキンソン病、ハンチントン病、PTSD、依存症などである。それぞれについて、脳イメージング技術やモデル動物の技術の進化によって明らかになってきた脳や遺伝子との関係を明らかにする。
裁判官が、新しい心の科学の知見を判決に取り入れようと。心理学者や脳神経科学者に支援を求めているというのは興味深い。実際に米国最高裁は、思春期の子どもは行動を制御する際に成人とは異なる脳の領域を使っており、「未成年犯罪者への仮釈放のない終身刑は違憲」との判断を下したという。
書籍情報
脳科学で解く心の病 〜うつ病・認知症・依存症から芸術と創造性まで〜
エリック・R・カンデル、大岩(須田)ゆり・訳、築地書館、p.360、¥3520