横田英史の読書コーナー
仕事と人間(上)〜70万年のグローバル労働史〜
ヤン・ルカセン、塩原 通緒・訳)、桃井緑美子・訳、NHK出版
2024.6.11 8:42 am
労働史を専門とする歴史学者が、狩猟採集の時代から現代に至るまでの労働の系譜を扱った書。人間はどのように働いてきたか、働き方はどのように変化してきたかを、人類史の中で位置づけながら探る。人の求める価値は、自尊心、人間関係、平等にあり続けたと筆者は説く。仕事に見出す価値基準は狩猟採集に培われ、現在人のなかにも根強く残っていると語る。我々は働くことに平等性を求め、他者と協力することで喜びを感じ、自尊心を保っているというのが著者の見立てである。
上巻がカバーするのは、互酬関係の基盤を生んだ小集団生活の時代から、産業革命まで。新石器革命と分業化、格差の誕生、都市と農村の分離、都市生活者のあいだでの分業、通貨の誕生、市場取引の拡大、経済的に繁栄した国家の世界進出といった歴史の流れの中で、労働がどのように変化したかを明らかにする。産業革命の前段階として「勤勉革命」があったという見解は興味深い。勤勉革命は「プロト(原基的)工業化」と呼ばれ、十分に稼いだら働くのをやめ、必要になったら再び働き始める「余暇選好」の時代と一線を画す。
世界の3つの場所(中国、北インド、小アジア)でほぼ同時に現れた通貨の誕生の話は興味深い。それらの通貨は、それぞれ独立に発明された。毎日のやり取りに使える標準体な交換手段への社会的な需要が、3つの地域で同時に十分に高まっていたというのは実に面白い。上下2巻、全部で1000ページ弱の大著だが、平易な書き口なのですいすい読み進むことができる。
書籍情報
仕事と人間(上)〜70万年のグローバル労働史〜
ヤン・ルカセン、塩原 通緒・訳)、桃井緑美子・訳、NHK出版、p.464、¥3520