横田英史の読書コーナー
結婚の社会学
阪井裕一郎、ちくま新書
2024.6.6 8:41 am
慶應義塾大学准教授で家族社会学者の筆者が、「結婚の常識を疑う」という問題意識に基づき、日本における結婚を社会学的に分析した書。結婚における問題は、個人のレベルではなく、社会のレベルに根源があることを、国際的な比較、歴史的な比較、理論に基づき明らかにする。明治前半の離婚率はいまの倍以上、戦時中に国営の結婚相談所が登場、神前式が普及したのは高度成長期など、豊富なデータや史実で持論を裏付けており説得力がある。夫婦別姓や少子化、ステップファミリー、同性パートナーシップなどの論点もカバーしており頭を整理に役立つ。
本書は、結婚の近代史に始まり、現代史、離婚と再婚、事実婚と夫婦別姓、セクシュアル・マイノリティと結婚、結婚の未来という構成をとる。例えば結婚の近代史では、見合い結婚と恋愛結婚、家族制度と結婚、共同体本位の結婚から家族本位への結婚といったトピックを取り上げる。かつて「共同体」「ムラの若者」が結婚を決める時代があったという話は、寡聞にして知らなかった。
結婚の現代史では、日本国憲法と結婚、職縁結婚、結婚適齢期、少子化と家族主義との関係、激減する仲人、マッチングアプリなどデジタル化する結婚といった話題を取り上げる。仲人の激減は、失われた10年と軌を一にするという見方は興味深い。1997年ころには過半数の結婚で仲人が立てられていたが、2004年になると1%にまで激減する。もはや仲人は絶滅危惧種である。非正規化による忠誠心や帰属意識の希薄化が原因と分析する。デジタル化する結婚については、出会いが予めフィルタリングされることによって、「スペックの社会的序列」の固定化に繋がりかねないと懸念する。
書籍情報
結婚の社会学
阪井裕一郎、ちくま新書、p.320、¥1100