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横田英史の読書コーナー

ドキュメント 異次元緩和〜10年間の全記録〜

西野智彦、岩波新書

2024.2.29  12:12 pm

 大量の通貨供給によって物価の押し上げを狙い、10年にわたって続けられた日銀の「異次元緩和」。その舞台裏を追い、妥当性を検証した書である。筆者は元時事通信の記者で、日本の財政・金融政策の決定過程に対する検証ではつとに定評がある。本書でも手練れぶりが遺憾なく発揮されている。黒田東彦日銀総裁の誕生秘話に始まり、初の学者総裁・植田和男が選出された経緯までを丹念な取材に基づき明らかにする。
     
 黒田日銀総裁就任時に打ち出された異次元緩和は、マネタリーベースを2年間で2倍に拡大し、2%の安定的な物価上昇を2年間で実現することを目標に置いた。黒田バズーカと呼ばれた。それが10年も続き、途中にはマネタリーベースの増加ペースの拡大、長期国債の買い増し額の拡大、ETFとREITの買い入れペースの拡大などのカンフル剤を打ったものの効果は薄かった。逆に、積み上がった国債は発行残高の54%に及び、ETFの総額は54兆円に達するなど、日本経済を劣化させる副作用もたらした。
       
 筆者は、①異次元緩和の誕生と変遷、②リフレ派と呼ばれる論者たちの勃興と退潮、③路線転換をめぐる黒田総裁と日銀プロパー、さらには日銀と金融庁、政府との攻防を時系列で追う。誰が、いつ、どこで、何をしたかを押さえることで、政策の決定過程に浮き彫りにする。日本経済は復活の兆しを見せているが、その前夜となる10年を知って損はない。読み応え十分な、お薦めの1冊である。

書籍情報

ドキュメント 異次元緩和〜10年間の全記録〜

西野智彦、岩波新書、p.256、¥1056

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。