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横田英史の読書コーナー

劇的再建〜「非合理」な決断が会社を救う〜

山野千枝、新潮社

2024.3.22  12:26 pm

 中小企業の跡取りが果たした企業再建を扱った成功物語。別の業界で活躍していた跡取りが、斜陽産業や廃業寸前だった家業を継ぎ、どのような発想と行動で起死回生の再建を果たしたのかを紹介する。著者は(一社)ベンチャー型事業継承の代表理事なので、てっきり自慢話満載で自画自賛の営業本かと疑って読み始めたが、意外に面白い。プロのノンフィクションライターや雑誌記者に比べれば記述に深みが足りないものの、個々のエピソードに力がありつい引き込まれる。文字が大きく、行間も開いているので、2時間もあれば読み終えることができる。肩のこらない内容なので、出張のお供に良さそうだ。
             
 取り上げるのは5件の再建物語。西陣織向け糸メーカーからIoTインフラを手がける企業に変貌した「ミツフジ」、布団メーカーからダウンジャケットの世界ブランドになった「ナンガ」、工具問屋から工具界のAmazonになった「大都」、石鹸を極めた「木村石けん工業」、運送業から鉄道車両輸出や風力発電事業を手がける企業に幅を広げ商社となった「アチハ」である。家業を継いだ経緯、当時の経営状況、再建するまでの道のりを軽い筆致で紹介する。
               
 面白かったのは西陣織の帯のために作った「銀メッキ繊維」と織りの技術で、ウェアラブル市場に進出したミツフジの事例である。銀メッキ繊維には、導電性、伸縮性、抗菌、防臭といった特徴がある。この銀メッキ繊維で作ったのが「スマート衣料」。伸縮性を生かして体の特定の部位に密着させ、導電性を利用して心拍や体温などの生体情報のセンシングを可能にする。さらにウエアラブルビジネスのプラットフォーム(クラウドシステム)構築のためにIBMと提携したというのも、祖業を考えると面白い。

書籍情報

劇的再建〜「非合理」な決断が会社を救う〜

山野千枝、新潮社、p.224、¥1980

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。