横田英史の読書コーナー
権力にゆがむ専門知〜専門家はどう統制されてきたのか〜
新藤宗幸、朝日選書
2024.2.15 9:31 am
専門知を生かせない政治・行政の責任、社会的責任を果たさない専門家の問題について論じた書。学術会議会員の任命拒否、新型コロナウイルス対策、原子力行政、司法制度改革、介護保険制度などを事例に挙げて鋭く批判する。政治がどのように専門家を扱ってきたか、専門家がどのように政治に取り込まれてきたかを具体的に示している。行政学の泰斗で市民主体の行政についての論客だった新藤宗幸らしい内容である。
政治と専門家との関係に変化が生じたキッカケは、新自由主義の流れとともに中曽根政権が濫設した「私的諮問機関」。法令に根拠をもたず国会審議を経ずに設置できでき、政権にとって使い勝手が良い存在だった。第2次安倍政権以降は「有識者会議」「審議会」と名前を変えたが、科学リテラシーの軽視と反知性主義に拍車がかかった。本来なら専門知に基づき政治に忖度なく提言する組織のはずだが、政権に意向に沿って都合よくお墨付きを与える存在に成り下がった。
新藤は、理系研究者にも厳しい目を向ける。人文・社会科学思考が“貧困”な理系研究者は潤沢な研究費をエサに取り込まれていると舌鋒鋭く批判する。専門知の機能不全の問題は、アカデミックの世界だけでは官僚機構にも生じている。内閣人事局の設置による官僚の人事権の掌握以降、官邸の官僚支配の構造が定着することで、官僚機構で士気(モラール)と職業倫理(モラル)が損なわれたとする。
新藤と朝日新聞の組み合わせなので内容は推して知るべしだが、この国の政治とアカデミックが抱える宿痾を言い当てているのも事実である。ちなみに「御用学者」という表現を、なぜか慎重に避けているのが印象的である。
書籍情報
権力にゆがむ専門知〜専門家はどう統制されてきたのか〜
新藤宗幸、朝日選書、p.264、¥1760