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横田英史の読書コーナー

世界一流エンジニアの思考法

牛尾剛、文藝春秋

2023.11.29  12:27 am

 米Microsoftの現役ソフトウェア・エンジニアが、米国流仕事の流儀を紹介した書。日本のソフトウェア開発現場との差を浮き彫りにする。「世界一流のエンジニア=MSのエンジニア」かどうかは不明だが、少なくともMSにおける仕事の進め方はわかる。筆者は日本のSIer出身で、彼我の差を具体的に示しており説得力がある。ちなみに筆者は44歳でMSに転職した後、現在はAzureのシニア・ソフトウェアエンジニアの職に就いている。
     
 日本流の仕事流儀に警鐘を鳴らす。すなわち、日本人の生真面目さと完璧を目指す姿勢が、生産性向上の足を引っ張っている。日本のソフトウェア・エンジニアは、不確実性を忌避しすぎる。「納期は絶対」の神話は捨てる。納期に間に合わないなら、現実的に即するようにスコープを出し入れする。「準備」と「持ち帰り」をやめて、その場で解決する。重要でないことの過大な工数を使わない。検討してばかりで「やらない」ことが最大のリスクである。選択にダラダラと時間を使うべきではない。迷うくらいなら、どちらを選んでも結果に大差はない。
     
 「怠惰であれ!」や「早く失敗せよ」といったMS流の仕事の進め方が、「真面目すぎ」「考え過ぎ」「やり過ぎ」の日本ですぐに適用できるとは思えないが、ソフトウェア開発のあり方を考えるヒントを与えてくれる1冊である。

書籍情報

世界一流エンジニアの思考法

牛尾剛、文藝春秋、p.272、¥1760

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。