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横田英史の読書コーナー

「戦前」の正体〜愛国と神話の日本近現代史〜

辻田真佐憲、講談社現代新書

2023.11.20  12:19 am

 タモリは徹子の部屋で「2023年は新しい戦前」と発言し話題になったが、本書はその戦前とは何だったのかを明らかにした書。神武天皇や万世一系、八紘一宇、教育勅語などが、為政者や軍人、教育者などに都合よくつまみ食いされて、利用・曲解されてきた歴史を振り返る。「美しい国」「戦前回帰」はともに実際の戦前とはかけ離れた虚像であり、現在の右派・左派にとって使い勝手の良い産物と断じる。
     
 政府や軍部、企業、民衆などさまざまなプレーヤーが複雑に絡みながら神話が消費され、国威発揚や戦意高揚に結び付けられてきた。国体や三種の神器は近代国家を急造するための方便として利用された。明治の指導者は神話を一種のネタとわきまえた上で利用した。それがいつしかネタが死守べきベタになり、ネタを守るために国民の生命が犠牲にさらされた。ネタがベタになるリスクを筆者は強調する。
      
 筆者は「原点回帰という罠」「特別な国という罠」「祖先より代々という罠」「世界最古という罠」「ネタがベタになるという罠」の視点で、神話を批判的に整理する。各地に点在する神武天皇像や八紘一宇の碑などを訪れたエピソードも楽しめる。神話を通して「教養としての戦前」に探った書でお薦めである。

書籍情報

「戦前」の正体〜愛国と神話の日本近現代史〜

辻田真佐憲、講談社現代新書、p.304、¥1078

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。