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横田英史の読書コーナー

イーロン・マスク 下

ウォルター・アイザックソン、井口耕二・訳、文藝春秋

2023.11.17  12:07 am

 Tesla、SpaceX、Starlink、Neuralink、X(旧Twitter)を経営するイーロン・マスクの伝記らしく、5つの米国企業に関する話題を中心に話は目まぐるしく展開する。上巻は51章に分かれていたが、下巻も44章と細切れ状態。伝記作家としてつとに知られる筆者らしく、知られざる企業経営と私生活の実態に迫っている。自由奔放な私生活に影を落とすエキセントリックな父親エロール・マスクの存在も本書で初めて知った。
     
 細切れになているせいで「もう少し深掘りしても良いのでは」と感じる部分も散見される。しかし個々のエピソードの面白さがそれを吹き飛ばしてしまう。Twitter(現在はX)を大混乱に陥らせた買収とリストラに関する逸話は特に面白い。ここだけでも読む価値はある。
      
 それにしてもマスクの常軌を逸した行動力や仕事にかける熱量の大きさには驚かされる。すべてセロから考え直し、先例や定説、安全サイドをいっさい無視する「仕事の流儀」は大したものである。「真面目すぎ」「考え過ぎ」「やり過ぎ」で、つい安全サイドに振ってマージンを大きくとりがちな日本企業との差が際立つ。リスクがなければ死んでしまいそうな「リスク中毒」のマスクが率いる会社と競争することの大変さを改めて感じさせる1冊である。上下2巻で900ページ近いと書だが読む価値は十分にある。

書籍情報

イーロン・マスク 下

ウォルター・アイザックソン、井口耕二・訳、文藝春秋、p.464、¥2420

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。