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横田英史の読書コーナー

創造的破壊の力〜資本主義を改革する22世紀の国富論〜

フィリップ・アギヨン、セリーヌ・アントニン、サイモン・ブネル、村井章子・訳、東洋経済新報社

2023.8.20  6:26 pm

 イノベーションをテコにしながら持続的で富の偏在のない経済成長を成し遂げるために、税制や教育制度といった政治的施策で資本主義国家が選ぶべき道を提示した書。広い視野から展開する議論はバランスが良く読み応えがある。フランス最高峰の教育機関「コレージュ・ド・フランス」における5年間に及ぶ連続講義をもとにした書で、400ページを超える大著だが読む価値がある。余白の大きなレイアウトなので、400ページ超だが意外に早く読み終えることができる。イノベーションについて関心のある方にお薦めの1冊である。
     
 著者はシュンペーター的経済成長理論を拠り所に、5つの経済的な謎を解明する。①長らく低空飛行だったGDPが、1870年ころに当時技術の最先端を走っていた中国ではなく英国で成長が始まった謎、②競争と生産性の伸び、競争とイノベーションに正の相関がある謎、③中所得国の罠、④長期停滞、⑤イノベーションが不平等に及ぼす影響、などについて解説を加える。工業からサービス産業への移行や、キャッチアップ経済からイノベーション建材への移行がなぜ起こるかについても言及する。いずれも実証研究の客観的・定量的データを用いてビジュアルに論じており説得力に富む。
     
 日本は低成長国に位置づけられ、評価は総じて低い。大企業を中心とした系列をはじめとした企業結合がイノベーションや新規参入を阻害しているとする。逆に高く評価するのが、スウェーデンやデンマークなどの北欧諸国。教育制度、労務制度、税制などが、人材育成とイノベーション促進の面でうまく回転しているとする。一方で筆者のお膝元であるフランスへの言及が少ないのは少々意外である。
     
 教科書という性質を反映しているのかもしれないが、教育投資の重要さを強調する。最適なイノベーション政策は教育投資と研究開発助成金の組み合わせだが、予算が限られている場合には教育投資を優先するべきだと説く。

書籍情報

創造的破壊の力〜資本主義を改革する22世紀の国富論〜

フィリップ・アギヨン、セリーヌ・アントニン、サイモン・ブネル、村井章子・訳、東洋経済新報社、p.488、¥4620

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。