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横田英史の読書コーナー

ゴースト・ワーク

メアリー・L・グレイ、シッダールタ・スリ、柴田裕之・訳、晶文社

2023.6.20  8:10 pm

 AIによってあたかも自動化されているかに見えるサービスやシステムを支える「見えない労働(ゴースト・ワーク)」と「見えない労働者」を歴史から説き起こし、その存在や仕組み、実態を紹介した書。5年の歳月をかけた米国とインドでの取材や調査をもとにする。筆者の2人は文化人類学者とコンピュータ科学者で、ゴースト・ワークを雇用関係を結ばない単発・短時間であるギグワークの暗部だと位置づける。米国人の8%が少なくとも一度はゴースト・ワークを手がけたことがあるという。生成AIによって労働市場の激変が避けられないなか、押さえておきたい話が盛り込まれた1冊である。
     
 筆者は、AIによる自動化が進んでも、思いがけない予想外のタスクが発生し、必ず人間の手助けが必要になる「自動化のラストワンマイル」が存在すると語る。そのラストワンマイルを克服するのがゴースト・ワークである。興味深いのは、米Amazonや米Microsoftが構築したゴースト・ワークの受発注プラットフォーム(API)の実態。前者はMechanical Turk(Mターク)、後者はUHRS(Universal Human Relevance System)と呼ばれるが、寡聞にして知らなかった。
     
 筆者はゴースト・ワークの受発注プラットフォーム(API)の問題点とともに、その欠点を補うゴースト・ワーカーたちの連帯を取り上げる。社会的な絆はバーチャルな職場にも不可欠で、労働者たちの工夫によって欠点を克服している実態を明らかにする。受発注プラットフォームによって仕事を請け負うオンデマンド・ワーカーにとって優しい職場には、安全性、安定性と柔軟性、透明性、繁栄の共有、公正な報酬、成長と発展といった価値観が必要とする。最後に筆者は、ゴースト・ワークの問題を技術的に解決する10の方策を提案している。

書籍情報

ゴースト・ワーク

メアリー・L・グレイ、シッダールタ・スリ、柴田裕之・訳、晶文社、p.448、¥2420

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。