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横田英史の読書コーナー

「心の病」の脳科学〜なぜ生じるのか、どうすれば治るのか〜

林(高木)朗子・編著、加藤忠史編・著、ブルーバック

2023.6.7  8:00 pm

 うつ病や統合失調症、PTSD、ADHD(注意欠如・多動症)などの「心の病」と脳との関係を解説した啓蒙書。心の病がどのように起こり、どうすれば治るのかを、脳科学の研究者が最新の知見を紹介する。研究者への取材をもとにサイエンスライターが再構成・執筆・編集しており、図を含めてとても読みやすい。心の病や脳科学に興味のある方にお薦めである。専門的なテーマを啓蒙書に落とし込むときの優れた方法なだけに、奥付にサイエンスライターの名前を掲げる配慮がほしかった。
     
 話題は多岐にわたる。「シナプスから見た精神疾患」「ゲノムから見た精神疾患」「脳回路と認知の仕組みから見た精神疾患」「慢性ストレスによる脳内炎症がうつ病を引き起こす?」「脳研究から見えてきたADHDの病態」「PTSDのトラウマ記憶を薬で消すことはできるか」など、興味深い内容が並ぶ。ビッグデータ、機械学習、ロボットを使った最新の治療法といったテーマもカバーする。
     
 心の病の診断は、患者から聞き取った精神症状に基づいており、診断名が同じでも発症メカニズムが異なったりする。こうした心理学的な基準で診断が下されているところが、原因の究明や治療を難しくする。例えば動物はしゃべれないので、精神疾患を動物を用いてモデル化することができないという問題を抱える。脳の情報を解読し、その情報をリアルタイムで被験者に見せて自分で自分の脳活動を特定のパターンに誘導してもらう「ニューロフィードバック」、ASD(自閉スペクトラム症)と腸内環境(腸内フローラ)、ADSとガンとの関係など、興味深い話が並ぶ。

書籍情報

「心の病」の脳科学〜なぜ生じるのか、どうすれば治るのか〜

林(高木)朗子・編著、加藤忠史編・著、ブルーバック、p.288、¥1210

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。