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横田英史の読書コーナー

日本の電機産業はなぜ凋落したのか〜体験的考察から見えた五つの大罪〜

桂 幹、集英社新書

2023.3.5  1:52 pm

 TDK出身でTDK米国子会社の副社長、イメーション日本法人の常務を歴任した著者が、日本の電機メーカーが凋落した原因を「5つの大罪」に求めた書。シャープの副社長を務めた父親と比較しつつ、電機メーカーの宿痾の数々を槍玉に挙げる。大罪とは「誤認の罪」「慢心の罪」「困窮の罪」「半端の罪」「欠落の罪」である。東芝の技術者から文芸評論家となった奥野健男の「技術者七つの大罪」を思い起こさせて興味深い。両者に共通する部分は少なくない。イノベーションは「選択と集中」と親和性が低いという見方も面白い。
    
 高品質、高性能、高付加価値こそが日本の製造業の強みだとする「誤認の罪」や、根拠なき楽観論に浸り、やるべきことをやらなかった「慢心の罪」、失敗することを必要以上に恐れて毒にも薬にもならないビジョンを作り上げてしまう日本企業の実情など、巷間知られた罪も少なくない。全体的に見て新規性に乏しい内容だが、ポイントを押さえており、よくまとまっているのは間違いない。頭の整理に役立ちそうな1冊である。
    
 なお筆者は大学卒業後にTDKの記録メディア部門に配属となった。入社当時、TDKはカセットテープやビデオテープなどでトップブランドだったが、デジタル化の波が押し寄せると、CD-Rなどで台湾や韓国に圧倒される。TDKは記録メディア事業を米イメーションに譲渡、そのイメーションも2015年に記録メディア事業から撤退する。筆者自身も2度のリストラを行うとともに、自らもリストラに遭うことになる。この間の行動や心情を筆者はかなり正直に書き綴っている。
    
 興味深いのは、TDKやイメーションの記録メディア事業が経営危機に陥った状況でとった筆者の行動である。いかにも日本企業の経営幹部にありがちな行動パターンで、これこそが「日本の電機産業はなぜ凋落の原因」「日本経営の弱点」と思わせる。

書籍情報

日本の電機産業はなぜ凋落したのか〜体験的考察から見えた五つの大罪〜

桂 幹、集英社新書、p.256、¥1034

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。