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横田英史の読書コーナー

「学びほぐし」が会社を再生する〜企業とファンドの組織変革物語〜

安嶋明、岩波書店

2022.4.29  7:20 pm

 照明事業を手掛けるNEC全額出資子会社のNECライティング(本書では匿名だが、すぐに推察できる)の事業再生と新規ビジネスの立ち上げプロセスを取り上げたビジネス書。現場の泥臭さにあふれており、岩波書店の書籍とは思えない内容に少し驚く。筆者はNECライティングを譲渡された事業再生ファンド「日本みらいキャピタル」の代表パートナーで、NECライティング再生の指揮を執った人物である。
      
 タイトルの「学びほぐし」とは聞き慣れないが、一度学んだ知識や価値観を意識的に捨て、再び学び直すこと。経営学や教育学で使われる言葉という。筆者は、「従来のものの考え方をそのままにして、ただやみくもに変革に走っても効果が出ない」と断じる。本書では、既存の考え方に凝り固まっている組織と個人をどのように切り替えたかを、ワークショップ(ファシリテーション)や面談、メールのやりとりなどを通して詳細に振り返る。
     
 「とにかくやってみて、失敗したら素早く振り返り、その本質的な要因を探りながら、また仮説を立てて行動する」ことが要諦と語る。組織の分断、混乱、停滞、葛藤など、さもありなんといった話が多いが、それだけ現実味を帯びて迫ってくる。「大企業(の子会社)にありがちな、何らかの工程表が決まっていないと不安で仕方がない。常に予定調和を求めている。即興力が弱い」という言葉に思い当たる節がある方も多いのではないか。

書籍情報

「学びほぐし」が会社を再生する〜企業とファンドの組織変革物語〜

安嶋明、岩波書店、p.172、¥2200

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。