Electronics Information Service

組込みシステム技術者向け
オンライン・マガジン

MENU

横田英史の読書コーナー

決定の本質〜キューバ・ミサイル危機の分析〜

グレアム T アリソン、宮里政玄・訳、中央公論新社

2022.3.15  10:55 am

 米国とソ連が核戦争の瀬戸際で踏みとどまったキューバ危機における、米国とソ連の意思決定プロセスを分析した政治学の古典的名著。ロシアのウクライナ侵略を受けて約20年ぶりに読み直したが(このときは途中で挫折)、間違いなく名著である。本書の出版当時、「奇妙でまだほとんど説明がつかない事件」とされていたキューバ危機を、筆者は多角的な視点で徹底的に分析する。「合理的にはありえない」とされた今回のウクライナ侵略も、本書を読むと違う風景が見えてくる。日本のテレビに登場する専門家や新聞の言説を真に受けないためにも必読だろう。それにしても、日本はロシアやウクライナに関する専門家の層が薄い。
     
 本書は1971年刊行の初版本(日本語版は1977年)だが古さは感じない。翻訳臭がきつくて読みづらいものの、我慢して読み進む価値は十分にある。ただし、秘密指定解除によって明らかになった新事実が盛り込まれた全面改訂版(米国で1999年に出版、日本版は2016年)が出ているので、こちらをお薦めする。評者も購入しており、読むのを楽しみにしている。
     
 筆者は3つの視点から、1962年10月16日からの13日間にわたるキューバ危機を分析する。
     
 第1は人間(米ソ首脳)は合理的・論理的に首尾一貫した行動をすると仮定したケース。古典モデルとされ、通常の分析はこの範囲に留まる。今回のウクライナ侵略でもこの手の分析が圧倒的に多く、進歩していない思いを強くする。第2は組織行動に注目したケース。政府を構成する組織の行動特性に着目する。選択が限定されている状況で下される基本決定は、以前に作成されたものを踏襲することが多いという。予算配分や組織構成、各組織が執着している兵器体系を分析するべきだと主張する。第3は政府内分析である。政府における政治力学や指導者同士の関係に着目する。キューバ危機で大きな役割を果たしたケネディとフルシチョフとの個人的な関係は実に興味深い。

書籍情報

決定の本質〜キューバ・ミサイル危機の分析〜

グレアム T アリソン、宮里政玄・訳、中央公論新社、p.404、¥3700(税別)

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。