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横田英史の読書コーナー

世界地図を読み直す〜協力と均衡の地政学〜

北岡伸一、新潮選書

2019.7.10  9:51 am

 元国連大使で現在はJICA(国際協力機構)理事長を務める政治外交史家による政治外交論。日本政府や団体による海外での知られざる地道な活動を数多く紹介するほか、日本のインド太平洋構想、中国の一帯一路、インドの台頭などについて切れ味鋭く論じる。雑誌の連載記事をまとめた書だが、軸がブレない語り口のため寄せ集め感はない。書き下ろしといわれても違和感は感じないだろう。国連大使としてやJICAとして世界各国を訪問したときの実体験を交え、地政学的な観点から日本外交のあるべき姿について語る。強くお薦めできる良書である。

 筆者は、中国やロシアの外交戦略、南アメリカや南太平洋、アフリカを地政学的に分析する。フィンランドやウクライナ、ジュージア、アルメニアの訪問体験からロシアの政治外交について、ミャンマーや東ティモール、ザンビアといったアジア、さらにはウガンダや南スーダン、エジプトといったアフリカの状況から中国の世界戦略を論じる。中国の一帯一路は過大評価することも過小評価することもなく、プロジェクトごとに冷静に判断すべきだとする。

 外交は日米、日中、日ロといった2国間でとらえられることが多いが、世界の中での日本の立脚点を踏まえた上で2国間の関係を考えるべきだというのが筆者の主張である。世界の実情を正視することが疎かな日本の安全保障政策に危機感を募らせる。保守系の論客といったイメージのある筆者だが、政治(安倍政権)とは是々非々で距離感をとっている。

書籍情報

世界地図を読み直す〜協力と均衡の地政学〜

北岡伸一、新潮選書、p.256、¥1404

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。