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横田英史の読書コーナー

操られる民主主義〜デジタル・テクノロジーはいかにして社会を破壊するか〜

ジェイミー・バートレット、秋山勝・訳、草思社

2018.11.26  9:42 am

 インターネットをはじめとする情報技術の進展が民主主義を脅かしていることを、英国のシンクタンクのアナリストでジャーナリストの筆者が切れ味鋭く論じた書。法概念は“モノ”という実体に基づいており、民主主義はテクノロジーに合わせて設計されていない。SNS、AI、インターネット・プラットフォーム、情報の独占が社会に与える深刻な影響に言及する。議論の進め方はきわめてクリアでお薦めの1冊である。

 ネットにおける炎上や発言が未来永劫残ることが、一般市民に自己検閲を強いる。矛盾した発言や誤った発言を反省することで人間の思考は鍛えられるが、インターネットではこうしたプロセスが失われる。筆者は、健全で思慮深い大人になる機会が現代人から奪われつつあると語る。

 「技術的な特異点(シンギュラリティ)」よりも、モラルと政治に関する大部分の判断を人間がコンピュータに委ねる「モラル的特異点」が早くやってくるとする。いったんコンピュータに頼ったら止められなくなると断じ、民主主義の未来に危機感を募らせる。

 「インターネットによって部族化する社会」やクリプトアナーキーという切り口も興味深い。部族政治では所属する集団への忠誠、他者への怒りが理性や妥協よりもはるかに上位に立つ。完璧な結論ですかさず答えてくれる、トランプをはじめとするポピュリストの台頭を全体主義の兆候として警鐘を鳴らす。ビットコインや暗号化メッセージ、匿名化ブラウザは、国家の土台をなす権威への挑発であり、国家を衰退させ崩壊の瀬戸際に追いやるクリプトアナーキーだと語る。

書籍情報

操られる民主主義〜デジタル・テクノロジーはいかにして社会を破壊するか〜

ジェイミー・バートレット、秋山勝・訳、草思社、p.247、¥1728

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。