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横田英史の読書コーナー

拡張の世紀

ブレット・キング、上野博・訳、東洋経済新報社

2018.8.5  1:46 pm

 テクノロジーによるディスラプションを振り返りつつ、2040年くらいまでをカバーした未来予測レポート。米国の書籍らしく網羅性が高い。最新の技術や企業の描く未来予測を、事例を含め幅広く取り上げており頭の整理に役立つ。特徴は、技術に関する“負”の側面はほとんど無視した楽観主義に貫かれているところ。1滴の血液で多くの疾病の検査できるというふれこみで一世を風靡したが、その後に信憑性に対する疑問が出て評判が地に落ちた米Theranosが登場するのはご愛嬌である。

 著者が主張する「拡張の時代」では、テクノロジーの埋め込み化と個人化が急速に進み、日常生活や行動が拡張されるという。本書では、ヒト型ロボット、自動運転、遺伝子治療。3次元のバイオプリンティング、ブライン・マシン・インタフェース、バイオニック耳、空飛ぶクルマ、ブロックチェーン、スマートシティ、AR、VRといった話題を取り上げる。今後15年のうちに人間の運転を禁じる都市が出てくる、保険会社は人間の運転するクルマの方にはるかに高い保険料を課す、といった話は興味深く読める。

 もっとも評者の感覚では、多くの人間は遺伝子的エラーがなくなって、はるかに長い寿命をもつようになる、完璧に近い人類を製造するようになる、といった話はさすがに疑問を感じる。

書籍情報

拡張の世紀

ブレット・キング、上野博・訳、東洋経済新報社、p.565、¥2592

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。