Electronics Information Service

組込みシステム技術者向け
オンライン・マガジン

MENU

横田英史の読書コーナー

《推薦!》ものづくりの寓話~フォードからトヨタへ~

和田一夫、名古屋大学出版会

2016.2.23  4:44 pm

 値段が破格な大著だが、それだけの価値がある良書である。日経・経済図書文化賞を受賞したのもうなづける。トヨタのカンバン方式の本質を、表面的な仕様や機能ではなく、何故そうなったのか、カンバン方式の思想、組織・職制や給与体系の改革、作業時間や工数に把握する仕組みにまでさかのぼって解き明かす。部品表やコンピュータ化にによる合理化・効率化も言及する。謎解きの味わいもあり、刺激的な書である。ちなみにタイトルの「寓話」とは、多くの人々が真実だと信じているが、実は間違っている言説や説明の意。カンバン方式も世の中の通説を追い求めても、逃げ水のごとく、本物には追いつけないという筆者の思いが込められている。

 筆者は、「ものづくり」を互換性部品を使って行う製造と定義する。日本における互換性製造の道のりを、トヨタにフォーカスを当てて描く。本書のすごいのは、トヨタが手本としたフォード・システムから説き起こしているところ。フォード・システムに関する研究がこの10年で進み実態が明らかになっているにも関わらず、日本では相変わらず誤解が解けていないと筆者は嘆く。移動式組立ラインの導入だけでT型フォードの製造コストがを大幅に下がったのではなく、日給5ドル制の採用による離職率の改善、部品が均一に作られ互換性が向上したことなどが寄与したことを、文献を読み込むことで明らかにする。写真の片隅に載っている万力にまで注目して自説を補強している。

 日本は、資金不足や資材不足、技術不足によって本式のフォード・システムをそのままでは採用できなかった。コンベヤーという搬送装置ではなく、「流れ作業」に焦点を当てた。これがカンバン方式の源流である。個人的にはIBMのコンピュータを使った合理化の経緯やサプライヤーを含めたかばん方式の実情の下りを興味深く読んだ。例えば前者では、トヨタはクルマを構成するすべての部品をコンピュータで処理できるようにする部品表の作成し、材料と部品の原価、作業時間、工具の原価、部品・車両の製造基準時間を定量化した。1975年に全車種について部品表に基づいてコンピュータ処理を行い、需要予測、長期・中期、月次の生産計画、外注部品の発注・納入指示・入荷までを体系化したという。

書籍情報

ものづくりの寓話~フォードからトヨタへ~

和田一夫、名古屋大学出版会、p.628、¥6696

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。