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横田英史の読書コーナー

世論調査とは何だろうか

岩本裕、岩波新書

2015.12.7  7:14 pm

 「週刊こどもニュース」の3代目お父さん役を務め、現在はNHK放送文化研究所世論調査部副部長の著者が「世論調査」の歴史や仕組み、実際、問題点について論じた書。なぜ取り上げるテーマは同じなのに、新聞社によって結果が異なるのか、どの数字が信頼できるのかといった疑問に答える。内閣支持率が30%になると危険水域、20%だと退陣と言われるほど世論調査の影響力は大きい。本書は啓蒙書としてよくできており、世論調査に興味を持つ方にお薦めの1冊である。

 調査方法には大別して面接法と配布回収法、郵送法、電話法があり、それぞれの特徴を明らかにするとともに、異なる方法で行われた結果を比べることの危険性に言及する。ちなみに現在主流となっている調査方法はRDD(Random Digit Daialing)法。ランダムに数字を選び出して固定電話にダイヤルする。「神の見えざる手」で調査対象を選ぶランダムサンプリングによって、従来の手法で問題となっていた調査員の主観を排除する。最大の弱点は、固定電話が対象なので携帯電話を捕捉できず、若者にリーチできないところ。一方で携帯電話にも問題がある。どこの地域を調査したのか分からないし、男性と女性で答える人数に大差が出てしまう。男性で回答してくれるのは60%なのに女性は4割を切るという。

 政治的機能をもつ世論調査の危険性に言及する。世論調査では、質問の仕方(言い回しや順序・選択肢など)によって、回答が違ってくる。また調査の主体が誰かによっても結果が異なる。こうなると世論を反映したものとは言いづらく、むしろ世論操作となると警鐘を鳴らす。

書籍情報

世論調査とは何だろうか

岩本裕、岩波新書、p.256、¥864

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。