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横田英史の読書コーナー

China 2049~秘密裏に遂行される「世界制覇100年戦略」~

マイケル・ピルズベリー、野中香方子・訳、日経BP社

2015.12.4  7:12 pm

 100年先を見据え、米国をはじめとする欧米諸国を欺き続けた中国外交の深慮遠謀に言及した、掛け値なしに面白い。著者は米国における中国専門家として著名であるばかりでなく、米国政府の中国政策に深く関わってきた。1969年に中国との連携を後押しする最初の情報をホワイトハウスに提供した一人という。以来、数十年にわたって技術と軍事の両面で中国を援助することを政権に促してきた。「中国は、我々と同じような考え方の指導者が導いている。脆弱な中国を助けてやれば、やがて民主的で平和な大国となる。大国となっても、地域支配や世界支配を目論んだりしない」と。しかし「こうした自らの行動と判断は危険なまでに間違っていた」と著者は懺悔する。ベストセラーになっているのも頷ける書である。正月休みに読まれてはどうだろう。

 著者は、習近平の時代になって、これまで隠してきた野望を明らかにし始めたと指摘する。南シナ海の南沙諸島での埋め立て行為など最たるものだろう。習近平は、毛沢東が指導者となり共産主義国家を樹立してから100年目にあたる2049年を「強中国夢(強い中国なるという夢)」を実現する年と位置づけているという。「重商主義を重んじる中国は、貿易と市場が必要とする資源の確保を何よりも優先る。資源の枯渇を偏執的なまでに恐れ、海外の貴重な天然資源の独占、あるいは直接支配を狙っている」という著者の指摘は、中国の行動をうまく説明している。

書籍情報

China 2049~秘密裏に遂行される「世界制覇100年戦略」~

マイケル・ピルズベリー、野中香方子・訳、日経BP社、p.440、¥2160

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。