Electronics Information Service

組込みシステム技術者向け
オンライン・マガジン

MENU

横田英史の読書コーナー

帳簿の世界史

ジェイコブ・ソール、村井章子・訳、文藝春秋

2015.12.1  7:11 pm

 700年に及ぶ財務会計の歴史を辿った書。よい会計慣行が政府の基盤を安定させ、商業と社会を活性化するのに対し、不透明な会計とそれに伴う責任の欠如が金融の混乱、金融犯罪、社会不安を招いたことを明らかにする。筆者は複式簿記の重要性を繰り返し述べている。「帳簿」というテーマに、これほど数奇な歴史があるとは思いもよらなかった。多くの書評で取り上げられ高い評価を得ているのも納得できる。何となく取っつきにくいタイトルで損をしているが、多くの方にお薦めできる1冊である。

 まず著者は、帳簿はいかにして生まれたかについて言及する。中世イタリアで複式簿記が発明されたのは、アラビア数字が使われていたことと、貿易が発展し共同出資方式が考案され、投資家に還元すべき利益剰余金の累計を計算する必要に迫られたことが背景にあると指摘する。

 ウェッジウッドの話も興味深い。ウェッジウッドは経営に確率の概念を持ち込み、緻密な原価計算を行うことで会社を繁栄に導いた。生産時間、賃金、原料費、機械設備費、販売費を綿密に計算したという。労務管理にも取り組むとともに、過去の販売実績に基いて将来を予想し、それに基いて生産計画を立てた。消費者心理も分析したという。実に先進的である。

書籍情報

帳簿の世界史

ジェイコブ・ソール、村井章子・訳、文藝春秋、p.381、¥2106

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。